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じゃっ夏なんで

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2022.07.28

カリブサンドだけは、いまでもほんとうのまま|飯田光平(編集者)

文:飯田光平  朗読:アズマモカ

僕をつくったあの店は、もうない。

都築響一編『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』(2021年1月刊)は、100名の書き手が、それぞれのスタイルで“二度と行けない店”について綴った珠玉のエッセイ集です。

そんなネバダイの世界をよりディープに味わっていただくべく、「ネバダイ・オーディオブック」として、本書に収録された100話のなかから作品をセレクトして、朗読版の音声トラックを週イチで無料公開していきます。

朗読者は、女優の冨手麻妙さん、タレント・ナレーターの茂木淳一さん、朗読少女・アズマモカさん。それぞれのスタイルでネバダイ珠玉の一篇を朗読していただきます。

カリブサンドだけは、いまでもほんとうのまま|飯田光平(編集者)※冒頭文抜粋

 どこにあるのか、どんな名前だったか、自分はそこで何を食べたのか。
 その詳細を、ほとんど覚えていない店がある。

 でも、ひとつだけ、おぼろげな記憶の中ではっきりと輪郭を持ったイメージある。
 ボリューム満点のサンドイッチを頰ばる、あさぐろの先生。
 その料理は、たしか「カリブサンド」なんて名前だった気がする。

 小学校高学年から、塾に通いはじめた。
 特に勉強への熱心な思いがあったからではなく、「塾に通おうと思うんだ」という友達に連れられて通うようになったそこは、とても地味な場所だった。

 駅の近くの、アパート2階。屋外に設置された階段を上ると2つの部屋があり、一方は先生の住居、もう片方が僕たちの教室。階段の覆いは、雨風と時の流れでボロボロになっていた。
 外国人(おそらくアメリカ)と日本人を両親に持つ先生は、日に焼けていて、髪は少しカールし、その筋肉でTシャツを大きく膨らます、シュワルツェネッガーのような人だった。
 塾の人数は、ひと学年に数人程度。その上、勉強がとても苦手だったり、学校でいじめにあっていたり、教師から「お前はもうどうにもできないから、あそこの塾へ行きなさい」と告げられた不良だったりが集うその塾は、子供心にも「ここは少し、異様だぞ」と感じ取れる場所だった。
 僕は、目を見張るほどの成績ではないけれど、そこそこ点数は取れる子供だった。5段階評価の4を安定してゲット、という感じ。なので、へらへらとしながら要領よく立ち回る。そんなクセがついていた。

 しかし、先生はおそろしいほど真っ直ぐで、“やりすごす”ことを許さない人だった。

NeWORLD · カリブサンドだけは、いまでもほんとうのまま|飯田光平(編集者) 朗読=アズマモカ
書籍情報

Neverland Diner 二度と行けないあの店で
都築響一 編


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体裁:四六判変形/並製/カバー装
頁数:640頁(カラー写真頁含)
定価:3,300円+税
刊行:2021年1月22日
ISBN 978-4-910315-02-7 C0095

アズマモカ

azumamoca
YouTubeに朗読動画を投稿する10代の朗読少女。
好きな作家は最果タヒ。某2次元アイドルに夢中。
小説、短歌、絵本などの文学から、漫才、円周率、Amazonレビューなど幅広いジャンルを読み漁っている。

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