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2021.08.26

何モノにも消費されないエロスとは?
女優・冨手麻妙と写真家・野村恵子によるフォトセッションから生まれた、新たなる挑戦。身体を通して、作品を創り上げていく過程や今後の表現について語っていただきます。

 

こんにちは。写真家の野村恵子です。女優の冨手麻妙さんと一緒に「裸」を撮っています。

冨手麻妙さんと初めて会ってから、二年半くらいになります。出逢った時は、ここまでお付き合いが続くとは思っていませんでした。いまふたりで個人的に「A&Kプロジェクト」なるものを立ち上げて、いろいろと実験的な作品や制作をしています。今回は、私からの話となりますが、お互いに本音もさらしあい、これからの裸について、それにまつわる話をふたりでしていきたいと思います。


© SHOGAKUKAN

冨手さんにはじめて出逢ったときから、なにかシンパシーを感じるというか、「なんだかこの人と気だけは合いそう……」という予感がしていました。

その時の仕事は、彼女の写真集『月刊 冨手麻妙』という小学館から発売されたグラビア写真集の企画で、私は彼女から写真家として御指名をいただき(彼女は以前に私が撮影した『月刊 満島ひかり』や他の写真集を見てのオファーでした)、その打ち合わせの場で初めて会いました。


© SHOGAKUKAN

今もそう感じますが、彼女はいつも真っ直ぐで、人や仕事にも物おじせず、ちゃんと向き合い、本能的に肝が据わっているというか、ちょっとオラオラなヤンキー的なオ-ラの雰囲気もあり? そしてまだ少女性を残した可愛さ、時に幼くも見える言動も、まったく嫌味がなく、私は彼女がとても好きになりました。


© SHOGAKUKAN

そこで、なんだかんだの相談の末、初めて会ってからわずか二回目で!?一緒にベトナムへと撮影に行くことになり、彼女と彼女のマネージャーの大輔さんと私との三人だけで、一泊目以外は宿もスケジュールも撮影場所も決めない、身体を張った撮影旅へと出かけることとなりました。スタイリストもメイクも編集者も同行しない海外ロケ……、普通のグラビア撮影ではありえないことです。夕暮れになっても、街をさまよいながら、なかなか決まらない当日の宿、ハエを払いながらジャングルみたいな川べりで食べた謎のランチ……。一週間ほどでしたが、彼女はよく付いてきてくれました。そして、何よりたくましかった。毎日いきあたりばったりの旅の撮影は現地の人々に助けられながら、それこそ昭和のAVのようなアドリブ満載のゲリラ撮影でした。
(詳しくは、まだ発売中なので、「月刊 冨手麻妙」をぜひご覧になってください)


© SHOGAKUKAN

この写真集の企画の当初に、私が彼女にした提案は「冨手さん女優だし、私がストーリー設定と役のイメージを作るので、その中で脱ぐほうがいいのでは? いまは冬だから、例えば雪国でエロスな雪女とかどう?」、「……いや、ない。作りこんだ役柄として脱ぐのは、もうたくさんやってきたから。今の本当の自分の、自然な麻妙の姿を撮ってほしいの!!」、「……あ、そう」、一瞬での却下……。

「この娘、そんなこと言うのだったら本性が出るまで追い詰めて撮ってやる! ?」と思い、旅しながら撮るか?という話になり、ベトナム行きの話になったのですが。そもそもは国内で三日間くらいの日程で撮影するという企画だったので、ふつうに海外にロケに行くほどの予算はなく……。しかし、私がベトナムには何回も行っていて土地勘があったことと、現地で撮影ガイドをしてくれるという頼れる友人がいたということもあって、月刊のプロデューサーのイワタさんが、当初の予算内で撮り終えることを条件に行かせてくれました。
そして、この写真集では、彼女は完全フルヌ-ドになり、しかもヌ-ドを多めに撮影をするということも、あらかじめしっかりと決められていました。もちろんバストトップもさらしての撮影です。


© SHOGAKUKAN

私もプロの写真家歴が長いので、グラビアや出版社に何を求められているかということはわかってたし、彼女もそのへんの覚悟はしていました。が、しかし、彼女は自分の裸が、「女性」として観られている、世の中でどう扱われているのか?ということを、はっきりと認識して、自分なりに方向性を意識し始めていた時期でした。身体はいくらでもさらす。しかし、ただのエロ好きに使われるような消費はさせない!という意気込みは感じていたので、私も共に旅をしながら、どう撮るべきか? どう向き合うべきか?かなり考えましたが、結局私は、ただ正直な自分の写真の感覚に頼って撮ることにしました。

初日から南国の光を受けて輝く、彼女の裸体はとても美しかった。そしてベトナムの街に溶け込んで初めて旅する少女のような、好奇心にあふれてワクワクとしたその表情は可愛らしいな、と心から感じ、その気持ちが写真になると思いました。


© SHOGAKUKAN

そんなこんなで写真集が出たあとに、彼女が言ったことは。
「結局さ、ベトナムでも、あたしは冨手麻妙を演じてしまうのよね。自分がなりたい自分というか。自然体ではあったけど、お酒を呑んで酔っ払っている時くらいが本当に自然な自分かな?(笑) でも呑んでいる時の麻妙はぜったい撮らないでね!!」……ほんと、本当の自分とか裸になるとかってなんなんだろうね……。


© SHOGAKUKAN

彼女は十代半ばからアイドルとして、大人の都合に合わせた仕事やグラビアもたくさんやってきて、仕事上いろいろと疑問に思いつつも我慢してきたことや、言えなかった本当の気持ちもあったようです。
今、大人の女性になり、女優として活躍し、ときには身体を張った演技もするなかで、「本来の自分と、俳優として女性としての自分。そして身体というフィルターを通した表現のあり方」みたいなものを、真面目に考えて模索しています。


© SHOGAKUKAN

「脱ぐことに躊躇はない。けれど、あたしの身体だから、あたしも大事にしているの。好き勝手に扱われるのはいやなの」。当然です。彼女は理屈で考えてものをいう人では全くない。本当に感じたままを言うだけ。あたしはそこまで考えていなかった、もしくは気づいてはいたけどおざなりにしていたこともあるなぁ、と考えさせられることもしばしばあり、この感覚がわたしたちのプロジェクトのはじまりでもありました。

そんなわけで彼女と裸をめぐる旅は、これからまだまだ続きます。


© SHOGAKUKAN

Vol.2へつづく

女優・冨手麻妙✕写真家・野村恵子

冨手麻妙(Ami TOMITE)
2009年「国民的アイドルオーディション」に合格し芸能界入り。数多くの舞台を踏み芝居経験を重ねる。 「新宿スワン」「リアル鬼ごっこ」「みんな!エスパーだよ!」「東京ヴァンパイアホテル」「Love of Love」と、園子温監督作品に続けて出演し、 初主演映画「アンチポルノ」で注目を浴び始める。最近ではNetflixドラマ「全裸監督」で山本奈緒子を演じ益々の活躍を期待される。

野村恵子(Keiko NOMURA)
1999年に沖縄をテーマにした写真集「DEEP SOUTH」をリトルモアより発表。同名の写真展を渋谷パルコギャラリ-にて開催。人物や風景から滲み出す濃密で切ない空気感、その独特の色彩感覚から力強く紡ぎ出された作品が高く評価された。また俳優を撮り下ろした写真集に「月刊満島ひかり」「月刊冨手麻妙」などの他、個人の作品集やコラボレーション作品、旅や音楽、食に関する取材の本も多数関わり出版されている。

野村恵子WEBサイト