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春がいっぱい

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2022.01.25

01 田島夫妻

南阿沙美

写真集『MATSUOKA!』『島根のOL』で注目される写真家・南阿沙美が心動かされた「ふたり」をテーマにしたエッセイ連載。友人、夫婦、ユニット、親子、人と動物など、属性を超えて、ふたりのあいだの気配を描き出す。毎月二回更新予定。

田島夫妻 

友人の企画したライブに田島ハルコちゃんという子が出ていて、ライブが終わったあとおぼろげに歩いていた様子が気になり、連絡をして写真を撮らせてもらったのが最初だった。
その後、彼女のアルバムのジャケットやアーティスト写真をお願いされたりするようになった。
私はイタリアンレストラン、サイゼリヤがとても好きなのだが、私にサイゼの素晴しさを教えてくれたのは田島ハルコちゃんだったと思う。(地元にはなかった)それから彼女とは三軒茶屋のコメダコーヒーや、駒場東大前のイタリアントマトに行ったことはぼんやり覚えている。新宿のバーミヤンに行ったこともあったな、そういえばチェーン店ばかりだ。二子玉川の混み合ったマクドナルドで、近くの席の男の子がオレンジジュースをこぼして大声で泣き叫んでいるのを見て、「つらい……」と微笑みながら涙を流していた田島さんの姿は、今でもときどき思い出してしまう。

たぶん私は、二度目に行ったライブで、彼女と物販に立っているNさんとあいさつしたんだと思う。
友人が、Nさんはいつもいるんだよなあ、田島さんは彼を相当信用してるんだろうなあ、と言っていたことを覚えている。
いつもより少し大きめのあるイベント前、出番を控える田島さんが猫背でパイプ椅子に座っていた。となりに同じくパイプ椅子にすわるNさんの背中もまるみがあり、いつもよりちょっと緊張しているように見える田島さんと二人、大人しく並んで座る後ろ姿が印象的であった。

そんな田島さんとNさんが結婚することになった。
いわゆる、昔ながらの家族付き合いというか、自分や配偶者の田舎に帰り、お家での振る舞いや立場に気を使うのが苦手な人は多くいるだろう。Twitterでの嘆きを見る限り、彼女もそんな様子だった。
結婚式当日、私の名前のある丸テーブルには、彼女がやっていたバンドのメンバーと、にゃにゃんがぷーさんというシンガーソングライターが着席。みんな静かに、めでたい今日の日に微笑みを浮かべている。
少し離れたテーブルには新郎の友人たちと思われる男性達が座っており、あとは新潟から訪れた新婦の両親や親族のテーブル、九州から訪れた新郎の家族のテーブルがいくつかあったように思う。非常にコンパクトな会場に、新郎新婦の入場。拍手が起きる。


スポットライトで照らされる花嫁との花婿の笑顔はちょっとお面みたいで、ゆっくりと丸テーブルと丸テーブルの間をぬけ、自分達の席にたどり着くのかと思いきや、その方向からは少し逸れ、逸れたぞ?と思って見つめているとそのまま前方にあるケーキに到着し、速攻で入刀したのだった。
入場したその足でケーキに入刀というのを初めて見た。その無駄の無さ(?)にこの式に対する、〝最低限のことだけをやるんだ〟というふたりの強い意思の表れに私は痺れた。その後は乾杯をし、親族の挨拶や友人の挨拶など、丁寧な司会進行のなか、順番どおりに順調に会はとりおこなわれた。
和装から洋装に着替え、なんだか異様にニコニコ顔に見える花嫁を近くで見ると、つけまつ毛の先にカラフルな玉が施されていた。異様にニコニコに見えるのはその玉のせいで、微笑むだけで福笑いのようなタレ目に見える。それはかなりおもしろく、可愛かった。
あっという間の、いい結婚式だった!

その後もときどき田島ハルコのライブに行くと、物販には必ずNさんがいて、とにかく、いつも必ずいた。
あるライブの帰り道では、なんとなく田島さんが少しいらいらしていたのか、Nさんに対してきつめの物言いをしていたことがあったが、Nさんはそれをいつものまるい目で聞いているだけで、夫婦の関係など夫婦にしかわからないが、私はなんとなく、このNさんのクッション性が田島さんの表現を永続的にさせてくれているんだなあと、想像したのだった。

そんな二人を、二人の家で撮ってみたくなり連絡をしたら、もちろんOKとすごく楽しみにしてくれてる様子。
一人暮らしの家を見るのも個人がつまっている感じが好きなのだが、二人の家というのはまた別のおもしろみがある。
それぞれのどちらかが選んでおいてあるものと、共有しているものが交わって空間ができているが、その中に私という異物が空間に入り込んでいることに、よい心地悪さがあって好きなのだ。
間取りは2DK。リビングの奥の部屋に入ると、更に四角いミニ小屋が、部屋の角ではなく微妙な中間に置いてあった。
簡易防音室、というのだろうか。宅録用のもので、聴力検査するときのあの四角い箱部屋のようだ。
彼女はMVやyoutubeも自宅で撮ることが多く、緑のバックのクロマキーなどもあり、おお、そうだここで撮っているんだよなそういえば、と思う。
その年2020年は新型コロナによる外出自粛で、みんなそれぞれできる限りの辛抱をした。忘れもしない、これからどうなっていくのだろうと不確かで不安な4月に起きた、あの当時の首相による犬を撫で撫でおくつろぎステイホーム動画で、インターネット上では怒りに震え上がった国民も多くいることがすぐにわかったし、私も、腹が立って涙が出た。その日の夜それにリアクションするように公開された田島ハルコの『うちで暴れな』は素晴らしく、それは私にとって、ひとり家でこの怒りどうしよう、と思っていたらものすごいスピードでかっこいい怒りに追い抜かれて、立ったままそれを見てる嬉しさだった。
そしてステイホームと言われていたあの時期に、私は私の家に、2人はこの家にいたんだよなと当たり前な想像をしながら、撮影用に着る田島さんの服を選ばせてもらう。
隣の部屋は寝床としている畳の部屋で、Nさんの服があり、サラリーマン的な洋服の間にどこで手に入れたか不明の「SPAM」のTシャツを発見。これはすごく良さそう。試しに着てもらったらやっぱりとてもキュートな出で立ちとなったのでこれで決まり。



畳の部屋とリビングで撮影。なんとなく、テーブルでご飯を食べるときは奥の窓側がNさんで手前が田島さんのようなのだが、たまたまいつものNさんの位置でNさんのイスに座った彼女がその座りごこちの悪さに驚き、「いつもこんなんで作業しているのか、かわいそう」と哀れみだし、良い椅子を買うよう強く勧めていた。

田島さんは普段自撮り写真をTwitterにあげることが多いが、二人で出かけるときのことを聞くと、田島さんがNさんのことを撮りまくっているらしい。今日撮った写真をカメラのモニターで見せると、彼女はまもる(Nさん)可愛い、まもる可愛い、まもるがおもしろくて可愛いからどの写真もいい……と言う。
私の前で田島さんは彼を「まもる」と呼んでいるが、Nさんは彼女の話をするときに「田島が、」という話し方をしていて、それについて、彼女がなに言ってるの、みたいなふうに言うとNさんはちょっと恥ずかしそうにして話を続ける。

いつも家で着ない服を家で着ていたらなんか眠くなってきた……と田島さんの顔がぬめ~となってきて、Nさんは「みなみさんが来てるのに寝ちゃうの」と少し困ったようで困っていない、いつものまるい目で眠りかけの田島さんを見ていた。

南阿沙美

Asami MINAMI
写真家。写真集『MATSUOKA!』(Pipe Publishing 2019)『島根のOL』(salon cojica 2019)。
ホームレス支援活動もしておりみなさまの捨てるのもったいない不要品回収中!

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