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2021.08.26

01 ファンシー絵みやげって何? その実用性

山下メロ

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載がスタート。全国行脚、個体比較、分析推察をもってヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。

はじめに

あなたはファンシー絵みやげを知っていますか? 1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称です。漫画タッチのイラストを使ったお土産品たちのことは、長らく人々の記憶から薄れかけていました。これは明確な総称が普及していなかったのが原因なのではないかと思い、“ファンシー絵みやげ”という名称を考案したのです。筆者は10年近くかけて日本全国の観光地の土産店・売店を調査し、現在も生存個体を保護するという活動をしています。

ファンシー絵みやげについてはすでに拙著『ファンシー絵みやげ大百科』(2018年 イースト・プレス刊)にて詳細に紹介していますが、商品の種類がおそらく数十万種と推定され、あまりに文化として奥が深いため、まだまだ伝えきれていない部分が多数存在します。

その中でも、筆者がファンシー絵みやげにおいて特に伝えたいのは、全国流通する商品にはない魅力です。その一つが「軽いノリ」と、そこからくる可笑しさ。この連載では、その部分にフォーカスしてファンシー絵みやげが持つ楽しさや時代の空気感をお伝えしていきます。

ファンシー絵みやげって何?

さっそく、そんな「楽しい部分」をご紹介したいところですが、まず最初にファンシー絵みや(以下:ファみやげ)とは一体何なのかをお伝えしなくてはなりません。

前述の通り、ファみやげは数十万種類つくられたと推定でき、その形態もさまざまです。そんな中、共通して見られる3つの特徴があります。

・実用的であること
・簡略化されていること
・英字が多用されていること

ただの置物じゃないファみやげ

まず「実用的であること」。ファンシー絵みやげ以前は、美術的な土産品が多く(人形などの置物や装飾目的のもの)それらは飾るくらいしか用途がありませんでした。しかし、ファみやげは、何らかの用途を持った道具であることがほとんどです。

たとえば一番種類が多いと推定されるキーホルダー。これは鍵を扱いやすくし、失くさないようにするという用途があります。

旅先から持ち帰りやすいサイズであること、子どものお小遣いでも買いやすい価格であること、またランドセルにつけて学校へ持っていき、どこへ旅行に連れて行ってもらったかをアピールできることなど、複数のメリットがあるためにたくさん作られ、売られていました。

次に多いと推定されるのは、陶磁器の湯呑みや灰皿。これらもしっかりと用途があるアイテムです。このように、「実用的な商品」というのがファみやげにおいて、とても重要なのです。

それでは、実用的なアイテムの一例をご覧ください。


「ぼくちゃんビーチ」アクリルキーホルダー(山梨県・清里)

ファンシー絵みやげのキーホルダーは金属製、または金属プレートの上に樹脂でコーティングしたものが99%くらいです。現在は「アクキー」と略されるアクリル製キーホルダーが主流ですが、この時代は少数派でした。

まず、この「ぼくちゃんビーチ」というキャラクター自体が全裸でサーフボードを抱えて走っているという、謎の状況……水着はどうしたのか。

そして清里は高原の原宿と呼ばれたくらいで、自然がいっぱいな山の上……なのになぜサーフボード

そもそも清里は山梨県と長野県の県境にあり、どちらも海はない……いや、このイラストに海は描かれてないんですが「ビーチ」って言ってますからね。しかもヤシの木

この「ぼくちゃんビーチ」は主に海水浴場などの名前が入って全国的に商品が作られているキャラクターなのですが、まさか KIYOSATO の地名を入れてしまうとは……これは裏を返せばターゲットである子どもが、地域の風土に無関心であるということなのです。


「CHAPPUん KID」ステンレスカップ(地名なし)

こちらの実用性は、食器として。よくあるのが陶磁器の湯呑み、マグカップ、皿、丼、徳利、茶碗、灰皿など。あらゆる食器にイラストを転写しています。

子どもが買うものなので、有名な窯元の焼き物ということはなく、型で作った磁器の量産品がほとんどです。

その中でも、登山客が多いエリアなどを中心に存在するのがステンレス素材の商品です。もともとリュックサックにぶら下げることが多いため、ボールチェーンが付属します。ソロキャンプやおうちキャンプなどのアウトドア需要が高まる今こそふたたび使える商品と言えるでしょう。

ちなみにこの「CHAPPUん KID」というシリーズには男の子と女の子があり、ともに農作業着のような格好で天秤棒を担いでいる姿になっています。こちらの女の子は「にんじん娘だべ」ということで、にんじんがいっぱいに入った2つの籠を担いでおり、田原俊彦さんのニンジン娘にも通ずる非常に牧歌的な世界観です。

しかし、男の子のほうは「ちゃっぷん」という音が示す通り、液体状のものを運んでいます。しかも「くさぁ~」というセリフ付き。つまり肥え汲みというわけです。現代で伝わるのでしょうか、肥え汲み。後にバキュームカーになるわけですが、汲み取り式便所のアレをコレしてくれる生活に無くてはならないお仕事。それを溜めておいて肥料にする肥溜めというものが存在して、漫画なんかでは通学路脇のそれに落っこちるという描写がありましたが、筆者も正直見たことがありません。

というわけで、長々と肥え汲みの話をしてしまいましたが、アウトドアでは衛生的な水を飲まなくてはなりませんので、水を汲むステンレスカップとしては、描かれているのが男の子ほうじゃなくて良かったな……と、まあ、そんなことを考えてしまっただけなのです。


「ABARENBôTAI SHINSENGUMI」ヌードルキャップ(京都市)

こちらもまた食に関する実用的な商品。

これは新京極の土産店・京のふるさと様にて、すでに売り物でなく使用されていたものをお譲りいただきました。

旅館なんかの和定食で、1人用の小さい鍋についてきそうなサイズのフタなのですが、あれよりも表面の処理はシンプルです。こちらはその「ヌードルキャップ」の名の通り、カップラーメンなど容器入り即席めんの代名詞「カップヌードル」などを食べるときに、お湯を入れたあとに上に載せるためだけのフタです。

下駄の歯のように二本並んだ取っ手により、イラストを印刷すべき平面が分割されてしまっているのですが、それでもうまいこと情報をバラして入れている

ちなみに珍商品のようで売れるのか、いくつかの観光地で別の絵柄のものが見つかりました。さらに一部地域で売られているものは端に回転する砂時計が付属していて、それで3分が計れてしまうという便利アイテムです。剥き出しの砂時計が割れそうで少し怖いですが……。


「KôMONSAN」定規(京都市・京都太秦映画村)

実用品のファみやげには、そのまま子どもが学校で使える文房具というのも存在します。

黒地に金色で文字が描かれていて、しかも目盛りは漢数字。ツッパリにも好まれそうな派手で、かつ渋い仕様となっています。

ちなみに黄門様といえば水戸藩の茨城県で、水戸でも水戸黄門のファンシー絵みやげが見つかるのですが、こちらは太秦映画村。水戸光圀公が有名になったテレビ時代劇『水戸黄門』の撮影をしていたということから、水戸に負けじと商品が多数あります。

といっても、京都自体に新選組、龍馬、舞妓さんなどキャラクターが豊富にいて、さらに映画村にも色んなキャラクターがいますので、黄門さまが重要すぎる水戸に比べると余裕を感じます。


「NIKKO TRIO the MONKEY」テープカッター(栃木県・日光)

実用性の高い文房具も、鉛筆などの筆記具となるとプリント面積が狭いため、ファみやげ的なイラストを配置するのが非常に難しくなります。
そのため、ノートやメモパッド、下敷きといったものが多くなる傾向にあるのです。

たとえばこちらのテープカッターにしても、よくある小さいテープカッターは、中のテープが側面しか覆われてないタイプが多いですが、こちらはスッポリと包むような構造となっており、その分大きくデザインを入れられるようになっています。こちらについては、実用的でありながらも、コンパクトを追求した実用性よりもデザイン、それもイラストなどをいかに大きくプリントできるかというところに主眼が置かれた商品なのです。

ちなみにイラストは日光東照宮の彫刻にもなっている「見ざる・言わざる・聞かざる」を、サルとのダジャレにしている「三猿」から。日光は修学旅行の定番であるためファみやげが多いエリアで、この三猿のイラストのバリエーションも多いです。

通常の「見ざる」は手で目を覆い、「言わざる」は手で口を押さえ、「聞かざる」は手で耳を塞いでいるものなのですが、ファみやげの三猿は時代を反映して「見ざる」はヤンキー風の三角形のサングラスで視界を遮り、「言わざる」はシンナーを吸って歯がボロボロのヤンキー風なのかマスクで発声を遮り、「聞かざる」はウォークマンのヘッドホンで聴覚を遮るというイラストが定番です。

新型コロナウイルスの流行によりマスクをして外出する風景が当たり前になった現在、この「言わざる」のマスクにも、シンナーとはまた違った親近感をおぼえます……。


「りょうまくん」鉛筆削り(高知県)

鉛筆側をねじるタイプの小型でプラスチック製の鉛筆削りはよくありますが、こちらは小さいながらも手回しハンドルがついています。

通常このタイプの鉛筆削りは鉛筆を固定する「おさえ」がついていたり、回してる反動で動かないように本体が金属製で重厚だったりします。しかし、こちらはそれを克服するために底面に4つの吸盤がついており、これで机などに吸着させて安定させるというアイディア商品です。

デザインされた大きめのシールを貼れば商品となる手軽さもあいまって、いくつかの観光地で確認されています。


「KOCHIFUKABA」本革ウォレット(福岡県・太宰府天満宮)

太宰府天満宮といえば、学問の神様・菅原道真公を祀る神社。そんなわけで受験生などがお守りとして持ちやすいお土産品が好まれます。ランドセルが通学カバンに付けられるキーホルダーは定番ですが、こういった小銭入れも重要です。なにしろ小学生なんかで、まだ自分の財布を持っていなくても、受験でよく知らない土地へ行きますから。当時は交通系ICカードなんかもありませんので、基本的には現金主義です。文字通り小銭を握りしめて行くと紛失しますし、テストに集中しなくてはならない状況でお金を落とす不安に心を乱されている場合ではありませんので、それはもう小銭入れが大事なのです。

数十枚の小銭と、イザというときのための分も含めて折りたたんだ千円札数枚。そしてお守りなどを全部入れることもできます。色んな意味で受験生向けに理にかなったアイテム。しかもこの財布自体に菅原道真公の御真影が神々しいまでの金箔押しされていますので、なおさら合格の手助けとなることでしょう。

あとは、革財布 KAWAZAIFU と 太宰府 DAZAIFU のダジャレという可能性も否めません。
いや、なんなら先に挙げた合理的な理由などは一切考えておらず、単にダジャレを思いついて作った可能性すらあります。

そんな思いつきから本革に金箔押しという現在ではあり得ないくらいコストをかけた子ども向け商品が生まれた可能性があるというのも、景気が良い時代の商品らしさですね。

しかし、KOCHIFUKABAー などと道真公の歌がローマ字で描かれ、幼い顔に描かれたこれらの商品は、太宰府天満宮の参道で販売が禁止されたのではないかという情報があります。筆者が現地で購入した際も、

「え、そんなのどこにあったの?
 売ってあげるけど、隠して持って帰ってね」

…と、言われて闇取引のようにビクビクしながら持ち帰ったものです。


「い~じゃないかよぉ」ハンディーモップ(北海道)

人はなぜ観光地で掃除用具を買いたくなるのか。
人はなぜ観光地でハンディーモップを買うのか。

そんな問いが聞こえてきそうなこちら。
ファみやげに色々な実用的商品があれども、こと掃除用具についてはマイナーです。
他には、ミトンのように手を入れて掃除する「ハンドモップ」という、非常に似通った商品くらいしか思い浮かびません。

ハンドモップは、手袋くらいのサイズで印刷範囲があるため商品化に非常に適しているのですが、いま紹介しているハンディーモップは「え!? そこに印刷するの!?」というような、狭小空間に文字とイラストを印刷しています。しかも、平面でなく曲面です。

そこまでしてイラストを印刷しなくては商品として成立しないという、何か切迫したものを感じずにはいられません。それだけファみやげにおいては「絵」がアイデンティティーなのです。

これさえあれば、机の上や車の中など、ほんのちょっとだけ掃除したいときに便利です。

しかし、なぜこれを観光地で……?

やはり専業主婦が多かった当時、お母さんに「もっと掃除してね!」的なプレッシャー込みで渡していたのでしょうか……。

以上、実用的なファみやげをいくつか紹介してまいりました。ここに挙げたものはほんの一例で、実用的なアイテムにはかなりの種類が確認されております。紹介しきれなかったタイプのアイテムについては、定番から例外まで今後の当連載に登場してくると思われますので、お楽しみに!

特徴として挙げた残り2つ「簡略化されていること」「英字が多用されていること」については次回以降にじっくりご紹介します。

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。最新刊『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』(東京キララ社)発売中!

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