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2021.10.14

02 子ども、風景に興味ない問題

山下メロ

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載。全国行脚、個体比較、分析推察をもって、ヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。今回はファみやげのメイン客層である子どもの嗜好を大分析!

はじめに

この連載では、1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげ=「ファンシー絵みやげ」について紹介しています。筆者は、このファンシー絵みやげ(時に「ファみやげ」)を定義し、10年近くかけて日本全国の観光地の土産店・売店を調査し、生存個体を保護する活動を行っています。

すでに私の著書『ファンシー絵みやげ大百科』(2018年 イースト・プレス刊)にて詳しく紹介していますが、商品の種類はおそらく数十万種あると思われ、文化としても奥が深いため、まだまだ伝えきれていません。特に「全国流通する商品にはない魅力」である「軽いノリ」と、そこからくる可笑しさ。そんな側面をこの連載では伝えていこう!……と思っております。

ファンシー絵みやげって何?

ファンシー絵みやげの定義について分かりやすく説明するため、以下の3つの特徴を挙げております。

1. 実用的であること
2. 簡略化されていること
3. 英字が多用されていること

前回は、“実用的であること”についてご説明しました。ファンシー絵みやげのほとんどが「何らかの目的・用途がある道具」にイラストをプリントしたものです。

では、実際にどんなイラストがプリントされているのでしょうか?
それが第二の特徴である「簡略化されていること」です。ファンシー絵みやげに使われるイラストの多くにとって重要な簡略化。はたしてそれはどういったものなのかを詳しく説明していきます。



京都の新選組のファンシー絵みやげキーホルダー。目覚まし時計の形になっているが、そもそも新撰組の時代にこんな目覚まし時計はない気が……。それどころか、なんの関係もない。しかも裏側は包囲磁石になっていて、時計ではない。

当時もファンシーと呼ばれていた

「ファンシー絵みやげ」における「絵」は、単にイラストというだけでなく、立体物(3D)に対する平面(2D)ということを表してます。前回も紹介したように「ファみやげ以前」の土産品は、こけしや木彫りの熊、巨大な将棋の駒など置き物がメインでした。その多くは立体造形物ですが、ファンシー絵みやげは既存の実用品平面の絵を印刷しています。色んなものにプリントするためには、平面の絵が必要で、その「絵」がアイデンティティーなのです。

もっと言えば、同じキャラクターの1つの「絵」をいくつかの実用的なアイテムに印刷して商品化する方法は、当時各地にあったファンシーショップで売られていたサンリオやサンエックスの文房具やオシャレグッズの手法と同じです。

ファンシー絵みやげの「ファンシー」は、そんなファンシーショップのファンシーグッズとの共通点からきています。実際に当時こういったお土産品を「ファンシー」と呼んでいた可能性は高く、高速道路のパーキングエリアやサービスエリアの売店に、今もその看板が残されている例がいくつか見られます。

男子は余計なものを買う

「ファみやげ以前」の時代、観光エリアの景勝地の写真を使った絵ハガキを、何枚かセットにした商品が人気でした。また、ペナントなどにも写実的な風景画や写真が使われていました。それに対して、ファンシー絵みやげにおけるイラストは、子どもが喜ぶ漫画タッチの簡略化されたイラストになっています。

ファンシー絵みやげが生まれて普及していく80年代は、人口バリューの大きかった団塊ジュニア世代がちょうど小学生になる頃で、需要が大きくなっていくその世代をターゲットとした商品を作る必要がありました。「子どもが欲しくなるものを、子どもが買える値段で、だけどどこででも買える玩具ではなく、地域に由来したもの」が標榜されていたように思います。そこで参考にされたのが、当時子どもがお小遣いを握りしめて通っていた地域のファンシーショップ、そこで売られていたファンシーグッズだったのではないでしょうか。

ファンシー絵みやげはファンシーグッズと同じように、実用的なアイテムにキャラクターの絵をプリントしたのですが、そこで描かれている絵もまた、ターゲットである子どもが好むものでした。



比叡山の小坊主キーホルダー。カップルではないが、頬が紅潮しているという例。しかし、目の前に意中の女性がいるのかもしれない……。それよりも、広いおでこに「Mt.HIEI」と書いてあるのは、尊厳に関わるのでは?

ファンシー絵みやげに描かれる人物は、頭でっかちな二頭身か三頭身で描かれます。点の目で、顔のパーツは下の方に集中し、口や鼻は時に省略。さらに眉毛が上の方に描かれるなど、おでこが広く描かれ、頬は紅潮しているように描かれます。これらはすべて子どもが親近感をおぼえる子どもらしさや、幼さの特徴を表現しているのでしょう。

頬の紅潮は恋をしている時照れている時の表現で、カップルのイラストでは定番ですが、カップルでなくとも、子どもの頬が赤いことの象徴としても描かれています。

こういった子どもが親近感をおぼえる表現は、同じく子どもをターゲットとしている児童漫画や少年漫画でも見られ、そこからの影響も感じられます。中でも、『Dr.スランプ』など鳥山明氏の漫画の影響が強く、デザインはもとより、ゴジラやガメラなどの特撮ヒーローや怪獣を二頭身にデフォルメして登場させたことなどは、その後のSDガンダムなどのデフォルメブームに繋がる重要なルーツの1つでした。



鳥山明著『Dr.スランプ』の単行本。


飛騨路のさるぼぼキーホルダー。顔の描き方に鳥山明作品からの強い影響を感じる。そもそも、さるぼぼは顔が無いのがアイデンティティーなのに、顔描いちゃったら台無しのような‥…。

ファンシー絵みやげでは、その土地にまつわる実在の偉人など、モデルが大人でも、二頭身で幼く見えるようなタッチになります。



旧・伊勢戦国時代村の「のぶくんおひめ」キーホルダー。織田信長がヒゲもなく、完全に子ども。この施設には安土城の天守閣が再現されているのだが、安土城のある滋賀県ではなく、なぜか三重県にオープンした施設である。これまでに何度も施設名が変わったことで有名。

武田信玄のような、髭が特徴で、なおかつ厳めしいイメージを持つ武将であっても幼く見えるように簡略化しています。しかし、そのギャップが自治体や観光協会が狙う「偉人のイメージ付け」においてマイナスに作用するケースもあったとか……この話は、また別の機会に。



武田信玄キーホルダー。かわいらしいけど、ちゃんとヒゲは描かれている。

ちなみに、「まんがのれん」と書かれた当時のファンシー絵みやげ暖簾の在庫が入った段ボール箱を見たことがあります。おそらくメーカーさんや問屋さんがそう呼んでいたのでしょう。

少年漫画の話をしてきましたが、では少女漫画に影響を受けた商品は無かったのでしょうか?

ファンシー絵みやげの世界における影響は、少女漫画よりも少年漫画のほうが多いです。

ファンシー絵しおりセットなど、一部の少女向けの商品に少女漫画の影響を感じられるものがありますが、種類は多くありません。修学旅行で木刀を買ってしまうように、いざ持って帰ったら途端に要らなくなるような物まで買って帰りたくなるのは、大体が男子。そのため雑貨の商品も男子向けが多くなったのだと思います。

当時、ファンシー絵みやげのイラストを描いていた方から、サンリオや少女漫画のようなイラストは、あまり商品に採用されなかったという話を聞いたこともあります。



大門多美さんの「うみべの便り」ファンシー絵はがきセット。

野菜や果物が少ない

動物がモチーフの場合は、人間のように擬人化しがちです。四足歩行の動物が人間のように直立で二足歩行したり、道具を手にもったり、服を着たりした姿になります。これは、普通のキャラクターイラストと変わりません。



飛騨路のコンキツネ体温チェッカーキーホルダー。キツネがチョッキを着て、直立している。新型コロナ禍の今、むしろ便利かもしれない。しかし、出てくるマークをうさぎじゃなくてキツネにできなかったのだろうか。

ただし、山や太陽、月などに顔が描かれることは少ないです。また、野菜や果物などの植物が擬人化されることもほとんどありません。おそらく手足がなく、人間のような頭身で描きづらいので、子どもが自己投影しづらいのかもしれません。

まず、顔があってしゃべる山や太陽は『Dr.スランプ』によく出てきますが、ファンシー絵みやげにおいては、あくまで人物の後ろに描かれるだけで、顔を描くということはほとんど行われません。例外としては、『金色夜叉』の舞台・熱海の貫一お宮のイラストなど、月が重要な場面で顔が描いてあるケースを確認しています。



熱海の金色夜叉キーホルダー。雲がかかった満月に顔が描かれている。なぜ下駄型なのかと言えば、貫一がお宮を足蹴にしたのが下駄だったからだろう。しかし、鼻緒まで再現しているせいで絵が見えなくなっちゃってる。

野菜や果物の擬人化キャラクターはファンシー文具をはじめ、アニメ、ゲームなどにも多く登場しますが、ファンシー絵みやげでは違った方法をとります。

ファンシー絵みやげが姿を消していった90年代末に登場するご当地キティストラップでは、りんごやイチゴなどの名産品をキティが頭にかぶっていました。こういった「かぶりもの」にする方法もあるのですが、ファンシー絵みやげ時代にはほぼ見つかりません。



青森のりんごちゃんキーホルダー。このように果物に顔を描いて、手足をつけた例は非常に少ない。そもそもカップルの女の子だけが「りんごちゃん」のように感じる、あおりんごの彼の名は……?

各地の名産品を商品化したい時は、伝統的な収穫のスタイルを纏った女性を描いていることが多いです。この女性も幼く描くため少女に見えます。大体が絣の着物にほっかむりというパターン。ファンシー絵みやげには、どうしてもイラストに人物(または擬人化した動物)が必要なのです。



青森のりんごっ娘キーホルダー。伝統的な収穫スタイルの女の子がキャラクターとなっている。「おいちいリンゴ、おっきなリンゴ、まっかなリンゴ」とローマ字で書かれている。

子ども、風景興味ない問題



富士山のキーホルダー。浮き彫りの技法でリアルに富士山だけが描かれている。

特徴には挙げていませんが、風景だけでなく必ずキャラクターが存在するイラストであることも重要です。山や海などの風景を描いたものや、建物だけをイラスト化したものは少しあるのですが、ファンシー絵みやげの主流派からは少し外れます。なぜなら……

子どもは風景に興味がない

…からです。

小さい頃、家族旅行などに連れていかれて、大人が「いい景色!」とか感動してても、ピンと来なかったことはありませんか?

そんなものより牧場のポニーが見たい、ソフトクリームが食べたい。

子どもとはそういうものです。

それまで多かった木版画のような渋い風景だけの商品と、子どもターゲットのファンシー絵みやげの大きな違いがそこにあります。

なんならキャラクターの背景に何も描かれていないものがほとんど。



富士山のキーホルダー。背景には富士山どころか何も描かれていない。シッポが本当にお尻から生えているのか不安になるイラストである。

背景を省略するのは、前述の通りファンシーショップで売られていたファンシーグッズのデザインを参考にしているせいもあるでしょう。しかし「Mt.FUJI」と書いてあるキーホルダーの、そこに描かれた動物の後ろに、簡単に描きやすい富士山くらい描けばいいのに、それすら描いていないというものも多いのです。むしろ、あえて描いてないのでしょう。

これは、子どもが風景に興味がないから許されているものの、理由は他にも考えられます。

たとえば、煩雑な背景を省略して情報を整理し、シンプルで伝わりやすいデザインに仕上げていることです。



富士山のハンカチ。このようにキャラクターと富士山が描かれている例はむしろ珍しい。

それから、1つのデザインを流用し、地名の部分だけを後から印刷して複数の場所で売るためです。どこにでも生息しているようなキツネなどのイラストにして、背景を省略するか、どこでもあり得るような風景を描けば大量に生産できるため、コストを削減しつつ色々な場所の売店や土産店で売ることができます。

しかし、何しろ子どもは風景に興味がありません。

とにかく重要なのはキャラクターです。

そのためキャラクターが不在のイラストはファンシー絵みやげの定義からは少し外れます。ただし、風景だけでも、その風景がかなり簡略化や誇張されたイラストになっている場合は、ファンシー絵みやげで間違いないでしょう。



富士山のキーホルダー。じゃっかんリアルタッチだが、夜空に画材のタッチを活かして流れ星が描かれており、非常にファンシーな雰囲気に仕上げられている。

最後にどうしても伝えたいファンシー絵みやげを紹介します。先ほども紹介しました、ヒゲが描かれつつも幼く表現された武田信玄のキーホルダーです。



あまり幼くなってない気もしますが、それよりもキーホルダー自体の形に注目してください。

明らかに他の商品の型を流用しちゃっていて、頭の形とかぜんぜん合っていません

それでも強引に商品として売ってしまうという、当時の勢いを感じずにはいられませんね。

面白いファンシー絵みやげはまだまだあるので、今後もどんどん紹介していきます。

つづく

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。

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