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2021.11.05

03 子ども、どうせ読めないだろ問題

山下メロ

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載。全国行脚、個体比較、分析推察をもって、ヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。

はじめに

この連載では、1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげ=「ファンシー絵みやげ」について紹介しています。筆者は、このファンシー絵みやげ(時に「ファみやげ」)を定義し、10年近くかけて日本全国の観光地の土産店・売店を調査し、生存個体を保護する活動を行ってます。

すでに私の著書『ファンシー絵みやげ大百科』(2018年 イースト・プレス刊)にて詳しく紹介してますが、商品の種類はおそらく数十万種あると思われ、文化としても奥が深いため、まだまだ伝えきれていません。特に「全国流通する商品にはない魅力」である「軽いノリ」と、そこからくる可笑しさ。そんな側面をこの連載では伝えていこう!……と思ってます。

ファンシー絵みやげって何?

ファンシー絵みやげの定義について分かりやすく説明するため、以下の3つの特徴を挙げております。

1. 実用的であること
2. 簡略化されていること
3. 英字が多用されていること

これまでの2回で、“実用的であること”と“簡略化されていること”についてご説明しました。実用的なものに、簡略化されたイラストがプリントされているのですが、最後に残った要素……それが添えられる文字です。最後に文字、そして文章について説明しましょう。

文字の特徴

ファンシー絵みやげの定義としては英字の多用なのですが、それも含めて広く文字の特徴を紹介します。

ファンシー絵みやげの最大の特徴はもちろん名前の通り「絵」があることなのですが、それと同じくらい「文字」も重要です。文字のないファンシー絵みやげはほぼありません。

それは、
地名がなくてはお土産にならないからです。

ファンシー絵みやげはお土産なので、特定の地域で販売されます。そこで売っている時は良いけれど、地元へ帰った時、地名が書かれていないと、どこの地域に由来する商品やイラストなのかがわからなくなってしまいます。


ファンシー絵みやげ黎明期の定番キャラ「LOVELY NORTH FOX」。土産店の方は「ラブちゃん」と呼んでいましたが、業界用語なのでしょうか……。
キタキツネは北海道の固有種で、寄生虫エキノコックスを媒介する害獣だったものが、映画『キタキツネ物語』のヒットもあり一躍人気動物になりました。
ケンエレファントのカプセルトイ「ミニチュア北海道」におけるバター飴にも、このキャラクターが描かれています。ちなみに今でもこのバター飴は現在でも北海道の空港や物産展で買えます。

しかし、特に地域固有のキャラクターがいない地域では、広範囲に生息するクマやキツネなど、地域に由来しないキャラクターが描かれることが多く、その場合は地名が必須です。

「北海道じゃなくてもホンドギツネがいるぞ!」ということで、日本中でキツネのファンシー絵みやげが作られました。こちらは「バリパリフォックス」。このように、非常に近い長野県の諏訪と美ヶ原でも、地名を変えて同じ商品を売っていました。

例外で、「さるぼぼ(飛騨)」や「白虎隊(会津)」、「なまはげ(秋田)」のように、絵で地域が分かるものに限って地名が省略されることがあります。

ナマハゲの風習は山形などにもありますが、基本的には「AKITA」の表記があります。こちらは地名も省略して「NAMAHAGE」とだけ書かれているパターン。頭文字「N」の処理にデザインのこだわりを感じます。

あまりメジャーじゃないエリアで販売する場合は、地名のシールをキーホルダーの裏に貼ったり、キーホルダーに付けたタグに貼ったりするケースもあります。

「これ、ありものに後からシール貼っただけじゃん」

そう言われてしまうでしょうけど、それでも貼らなくてはならないのです。
地名が書かれていることが大事だから。

キツネと同様にクマも日本の広範囲で使えるキャラクター。このようにタグのパーツに地名のシールを貼れば、日本中で売ることができるのです。こちらはクマ牧場のある北海道の登別。
ヤシの木の型抜きがされているので、温暖な海沿い向けのものと推測されますが、あまりよく見ずに「クマだから登別で売ろう!」ってなったのでしょう。買う側も気にしないので、何の問題もなかったと思います。時代の勢いを感じますね。

この手法は、土産店に売ってるオモチャとの差別化という側面もあるでしょう。子ども向けの商品としてはファンシー絵みやげ以外にも普通の子ども向けのオモチャが売られています。

「これ、地元のオモチャ屋さんで買えるじゃん」

はい、でも子どもは地域限定のものより、オモチャが欲しい。そして、おじいちゃんおばあちゃんは孫が欲しがるなら買ってくれちゃったりします。渋い木彫りの熊の置き物では孫は喜びません。たまにあう祖父母ならそれでもいいのですが、生活を共にする親の立場となれば、どこでも買えるようなオモチャでなく、できればここでしか買えないものを買い与えたい。

そこで地名がモノを言うわけです。

子どもが欲しがる漫画っぽい要素のイラストの商品。それだけなら地元のファンシーショップにも売っているでしょう。でも違うのです。その地域のキャラクターがイラストになっているのです。もし、そうでなくても地名があるのです。

そういったわけで、一番重要な文字情報は地名ということになります。

これはファンシー絵みやげに限った特徴ではなく、お土産品全体に言えることでもあります。特徴があるとすれば、その地名がローマ字で書かれていることです。

ローマ字日本語

ファンシー絵みやげの全盛期である80年代後半あたりは、色々なもののデザインにアルファベットが多用されていました。小田和正さんがK.ODA、チャゲ&飛鳥がCHAGE&ASKAと表記するように変わり、和文を使わないレコードジャケットのデザインが普通になった時期です。英字新聞の柄がオシャレなものとしてファッションなどで人気となっていました。

半分以上が英字のデザインになっているクマの「EASY NATURALIST」。長い英文も、読まれることはあまり想定されておらず、あくまで英字がたくさんで大人っぽい感じを演出していると思われます。

ファンシーショップのファンシーグッズ、そして観光地のファンシー絵みやげも英字が溢れました。ターゲットである子どもが読めるかどうかなど関係なく、デザイン上のオシャレさを優先したのです。子どもも別に文字を読みたい欲求で買うわけではなく、なんとなく英語をカッコイイもの、大人っぽいものだと思っているため問題はありません。

そのため「KARUIZAWA」「HARAJUKU」のように地名もローマ字になります。たとえ、そこが由緒正しい歴史的な地名であっても、ひとたびローマ字にしてしまうとケーハクな雰囲気を帯びてしまうのが不思議です。

島崎藤村の「夜明け前」の書き出し「木曽路はすべて山の中である」で有名な木曽。そのイメージを180度ひっくり返すような「KISO」という軽い表記。そして「ゆきぼ~ず」。
キーホルダーについたハゲ跡から、第2形態のままランドセルでブラブラ揺らしていたことが分かります。実際に本来の目的で使用されていたことが分かる、こうした形跡も愛おしい。

さらには、日本語の文章をローマ字で表記したものや、英語の文章も添えられることが多いです。これは状況説明だったり、キャラクターのつぶやき、心の声だったり、小説や民謡の一節だったりと様々です。

誤字脱字や訓令式ヘボン式混在のローマ字、そして間違ってそうな英文など、けっこう適当なケースも時々見受けられます。そして大体においてキャラクターのどうでもいいつぶやきが書かれています。ターゲットである子どもの大半が読めないからか、内容や正確さよりも、ケーハクな雰囲気と、デザインのオシャレさに主眼が置かれているようです。

文字の書き方

文字にも特徴があります。フォントや写植といった書体も使われるのですが、多くはフリーハンドです。中でもマル字(丸文字)っぽい手書き文字が主流で、若い新入社員が自分の癖字そのままに書いてたケースが多いように思います。

手書きの文字で良さは温かみを感じ、さらにマル字であることによって、クラスメイトと授業中に手紙やメモの回しっこをしているような親近感。

時代劇「忠臣蔵」赤穂浪士の出身地・赤穂で売られていた大石内蔵助のキーホルダー。「忠臣蔵」「DONDON」「播州赤穂」それぞれの違うタッチで手書きの文字が使われることで、デジタルフォントにはない親しみを生んでいます。

また、文字をどんな画材で書くかという問題も重要です。線だけで構成されることが多い文字は、イラスト以上にその線の個性が大事になってきます。クレヨン風、色鉛筆風、サインペン風。どんな文字をどんな画材で書くかによって、その言葉の印象が大きく変わってくるのです。

京都の新選組グラフィティー巾着袋。手書きではなく書体のようですが、筆文字のタッチで「SHINSENGUMI GRAFFITI」と書かれています。ファンシー絵みやげには、なぜか右側を見るキャラクターが多く描かれました。「ERA DRAMA」はおそらく時代劇のこと。

他にも「がんばる」「ぐわんばる」と書いたり、「だよ~ん」という語尾にしたりなど、当時の若者言葉が使われることもあります。そういった軽い言葉を戦国武将に言わせたりしているところが、ファンシー絵みやげの面白さでもあります。

HOKKAIDO キタキツネキーホルダー。「えんやこらほっかいどお」がマル字で書かれています。「ほっかいどう」でなく、わざと「ほっかいどお」と書くのが当時の空気感。

ファンシー絵みやげの特徴おさらい

ファンシー絵みやげとは実用的な商品に、擬人化した動物のイラストが、どうでもいいセリフをローマ字で言っていて、ローマ字の地名がプリントされているものです。

どうでもいいセリフであればあるほど、適当に考えていればいるほど若いクリエイターの気持ちがダイレクトに感じ取れます。会議を重ねたり、全国流通のために無駄を削ぎ落していくと生まれない商品たちです。それはバブル時代の空気感そのもの。

「出せば売れる」好景気と、「その観光エリアだけでの販売」という小さい流通によって、バブル時代の空気感を閉じ込めることに成功した奇跡の商品群だと思っています。

定義としては3つだけ挙げましたが、実用性・イラスト・文字だけでなく、色使いや素材、かたち、パーツ、印刷技術など様々な要素があり、それぞれに時代性や特徴や、面白い部分がありますので、この連載でおいおい紹介していきます。

他にも変わったファンシー絵みやげを紹介するよ!

ローマ字だと地名が判別できない問題!

さきほど紹介した「EASY NATURALIST」のクマ。「TATEYAMA」だけでは富山県の立山なのか千葉県の館山なのか判断できません。館山の場合は、海にまつわるキャラクターとともに「BOSO」と書かれるという知識があれば、これが立山だと分かります。
その混同を避ける意味もあってか富山県の立山の場合は「KUROBE・TATEYAMA」と表記されるケースも多いです。

逆に、漢字だと鳥取の大山(だいせん)か、神奈川の大山(おおやま)か判断できないのですが、ローマ字だと「DAISEN」「OOYAMA」と書かれるため、どちらか区別ができます。

「ONEGAI KAKURETEッ」
最後だけ急にカタカナッ!
このように英字の中に突然、漢字や仮名が入ってくる遊び心もあります。

三重県・伊勢路の「COCOBOY」、液晶温度計つきテレホンカード風キーホルダー。
サーフパンツにまで英字を使っています。
そして「僕は毎日サーフィンしている、タコくん元気ですか」という、別にわざわざ書かなくてもいいような文章が書かれています。

PAO~Nの巾着袋。「ゾーさんは寒い寒い」。上の部分には「BURU BURU」。
おそらく長野県のスキー場周辺で売られていたファンシー絵みやげ。

アフリカなど暑い地域固有の人気動物である象さんを、スキーブームの時代にどうやって商品かすればいいのか。「せや!寒がらせたらええんや!」みたいなアイディア商品です。

下の部分に残る糸は、ここに地名のタグが縫いつけられていたことの名残りです。

「あったかいの好き」
困り顔だった象さんも、裏側では少し元気になったようです。

 

面白いファンシー絵みやげはまだまだあるので、今後もどんどん紹介していきます。

 

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。最新刊『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』(東京キララ社)発売中!

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