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じゃっ夏なんで

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2022.05.31

『四文屋にて』

豊田道倫

 加地くん、元気ですか?

 今、ぼくは四文屋で飲んでます。新世界のジャンジャン横丁の中で。この間歩いてて、え! こんな所に四文屋があるって驚いて、今日ひとりで昼間から入ってみた。広い店だけど、カウンターもあってね、入りやすい。
 よく加地くんが飲んでた高円寺のガード下の狭い四文屋はなくなったみたい。高円寺も再開発がこれから色々進むらしいって話、聞いた。
 ぼくはあのガード下の四文屋で加地くんと飲んだ記憶はなくて、でも、加地くんがいつもあの店に入り浸っていたのは覚えてる。いつだったか、ライブをやりに歩いてたら四文屋で飲んでる加地くんが見えて、声掛けたっけ。ぼくのライブなんか見なくていいからって言って、後で合流して飲んだかな。まあ、もう、十年ちょっと前の話になる。
 一昨年の春、大阪に息子と越して来たけど、その頃からコロナ禍となって、大阪に来たのかコロナの世界に来たのかわからなかった。街へ出てもひとがいなくて、店は閉めてて暗くて。外国人観光客が一気に消えて、それは今もほとんど見ない。特にこの辺りは外国人観光客を見込んだ宿泊施設がガンガン建ってたから、まだ今も休業してるところあるんじゃないかなあ。
 いつの間にかぼくも五十を過ぎて、もう五十二歳さ。すっかり初老やね。でも、髪は染めてるからちょっとは若く見えるみたい。不思議だけど、最近髪が伸びるのが早い気がする。二、三週間ごとに散髪に行ってる。加地くんと遊んでた四十代の頃の写真見たら、髪が薄い。あの頃はそのうちハゲるんだろうなあと思ってたっけ。
 あ、レモンハイと、タン、ハツが来た。後、長芋の漬物も。なんとなくひとりだけど、加地くんと乾杯。

 お酒はずっと飲んでなかったけど、最近煙草をやめたからちょっとは飲もうかなあと。気が向いた時にね。元々酒が好きってのはなかったから、やめるのは全然苦ではなかった。
 加地くんはお酒好きだったから、今もどこかで飲んでるんだろうなあってよく思う。飲み方が綺麗だったね。荒れたりしたとこ一度も見てないし、いつも冷静で、丁寧に話してた。
 わ、ここのレモンハイ、結構濃い! 薄いと思ってたから、酔いそう。あかんね、やっぱりまだ酒はちゃんとは飲めないや。
 この間、岡敬士くんが新しい音源を送ってくれて、とても良かった。この音楽を作ってるひとが、加地くんのリリースをやってたというのが結びつかなそうなのがいいね。同じような音楽やっててもしょうがないし。
 加地くんが東京に出て来た時はびっくりした。たしか渋谷のライブハウスに突然来てくれて。一緒にいたのが岡くんで、若い連中にも加地くんの歌に刺激を貰ってた子がたくさんいたね。大森靖子さんも前野健太くんも。他にもたくさんいるし、まだまだ聴き継がれていると思う。
 加地くんとツーマンをやった無力無善寺のライブ、お客さんいっぱいで女の子も多かった。ほとんど加地くんのファンだったんじゃないかなあ。ツーマンなのに、ギャラをたくさんくれたのも覚えてる。どう考えても配分は多すぎたけど、加地くんと岡くんが「いいんですよ」とニコニコして笑っていたのも。ぼくが結婚して子供が生まれた頃だったので、気をつかってくれたんだなあと。
 大阪では色々散々な目に合ってきた話はちょこちょこ聞いていたけど、加地くん本人から聞いたことはなかった。東京の高円寺の街で生き生きしていた加地くんだったけど、色々あって何年かして大阪に戻ってしまった。
 大阪に戻る少し前の頃だったかな。電話をしていて、「明日新宿でライブあるから来る? 七時から」と言って切った。その翌朝七時にお店から電話があって、「あのお、お客さん来てますけど」って言われて、思い切り飛び上がったけど、やっぱり朝で。朝の七時にライブやるはずないやん、加地くんちょっと大丈夫かあって思ったけど、もう飲み過ぎてたのかなあ。この朝方の電話の体験は結構怖かった。
 他にも色々話は尽きないけど、加地くんが東京で若い連中と遊べたのは楽しかったんじゃないかなあ。女の子もたくさんいたし。「いやあ、ブスばかりですよ」と笑ってたけど、今思えばみんな可愛かったよ(笑)。 

 二杯目飲もうとしたけど、あかん。いや、飲まなくちゃ。
 何があったわけではないけど、加地くんと飲みたかったから四文屋に来た。新世界のこんな場所だけど、いまだ観光客は戻って来ないから平日の昼間は静かなもんさ。
 そうそう、加地くんが大阪に戻ってから、ぼくがベアーズであべのぼるさんを呼んでライブをやった時、楽屋に来てくれたね。
 で、もう結構酔ってたのか、いきなりテーブルに置いてあった缶ビールか何かをこぼしちゃって、きっと初対面だったはずのあべさんに「自分自分、あかんでー、しっかりしや。大丈夫か」って叱られてたっけ。そんなあべさんも大概なひとだったけど(笑)。でも、その様子がなんかおかしくて、幸せな光景として一生忘れられない。よく思い出して笑ってしまう。
 今頃あべさんと飲んでたらいいなあ。
 ぼくはまだしばらく大阪にいてるよ。

 
 

豊田道倫

とよたみちのり

1970年生まれ。1995年にTIME BOMBからパラダイス・ガラージ名義でCDデビュー。以後、ソロ名義含めて多くのアルバムを発表。単行本は2冊発表。

今年2月14日にシングル『戦火の中を-2022』をデジタルリリース。

配信リンク→ https://linkco.re/axq1vvAZ
MV→ https://youtu.be/dDZGWtGgp78

photo by 倉科直弘