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春がいっぱい

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2022.04.05

26 ボーダーレス化するAV[1]
芸能界とつながるAV業界

安田理央

1981年に発売された『ビニ本の女・秘奥覗き』と『OLワレメ白書・熟した秘園』にはじまるとされるアダルトビデオは、その誕生から今年で40年を迎える。欧米のポルノビデオとはまったく異なる独自の進化/深化をたどり、世界の性産業に影響を与える日本のエロビデオ文化を、アダルトメディア研究家の安田理央が、その前史から現代に至るまで、メディア、流行、社会状況、規制との駆け引きなど多様な視点から歴史化する連載。

恵比寿マスカッツ、デビュー

2008年4月7日の深夜にテレビ東京系で『おねがい!マスカット』という番組の放映が開始された。

司会は、おぎやはぎの小木博明と矢作兼、アシスタントとしてオアシズの大久保佳代子とお笑いタレントが出演しているが、この番組の主人公は「恵比寿マスカッツ」と名付けられた女性グループだった。


DVD『おねがい!マスカット アハハ編』(2009)

当初のメンバーは蒼井そら、麻美ゆま、あのあるる、安藤あいか、小川あさ美、小倉遥、小澤マリア、かすみりさ、片岡さき、川村えな、くるみひな、庄司ゆうこ、夏実かほ、西野翔、初音みのり、花園うらら、モカ、桃瀬えみる、吉沢明歩、Rio、若杉夏希。

このうち、あのあ、安藤、小倉、片岡、川村、庄司、夏実、花園、若杉はグラビアアイドルだったが、それ以外はAV女優であった(あのあ、片岡は後にAVデビュー)。

しかし番組中では裸になるわけでもなく、AV女優であることも明かされず、バラエティタレントとして扱われていた。

『おねがい!マスカット』は翌2009年に『おねだり!!マスカット』にリニューアル。以降も『ちょいとマスカット!』『おねだりマスカットDX!』『おねだりマスカットSP!』とタイトルを変えつつ2013年まで継続した。

それにつれ、恵比寿マスカッツもメンバーの加入、脱退が繰り返され、かすみ果穂、希崎ジェシカ、希志あいの、希島あいり、里美ゆりあ、佐山愛、そしてみひろなどの人気AV女優が参加する。

2010年にはCD「バナナ・マンゴー・ハイスクール」を発売、ライブもおこない、恵比寿マスカッツはアイドルグループとしても活発に活動するようになっていく。

8枚目のシングル「逆走♡アイドル」はオリコンチャートで最高7位を記録するスマッシュヒットとなり、中野サンプラザや渋谷公会堂といったホールでもコンサートを成功させる。アイドルとして成功を収めたグループだと言っていいだろう。


恵比寿マスカッツ「逆走♡アイドル」(2012)

そうなると、恵比寿マスカッツを「普通の」アイドルグループとして知り、ファンになるという層も出てくる。

拙著『AV女優、のち』は、2000年代にデビューした7人の「元」AV女優に引退後の活動を語ってもらったインタビュー集だが、その中にみひろと麻美ゆまという恵比寿マスカッツのメンバーが2人がいる。

麻美ゆまは『おねがい!マスカット』に出演してからの周囲の状況の変化について、こう話してくれた。

 それまでにも、ドラマなどには出させてもらったりはしていたのですが、バラエティ番組でレギュラーで、しかも脱がないわけじゃないですか。普段ならAVを見ないような人たちにも見てもらえるし、知ってもらうこともできる。お蕎麦屋さんで食事していたときに、後ろの席でOLさんたちが「深夜に、おぎやはぎがやってる番組知ってる? あれ、面白いよね」って話をしてたんです。わたしはそこで、「ここに出演してる人、いるよ!」って思いながら聞いていました(笑)。

 ライブには女のコもいっぱい来るし、親子連れも来る。子どもがわたしに「リーダー、大変だけど頑張ってね!」みたいな手紙をくれるんですよ。涙が出ちゃいました。でも、その半面で複雑な気持ちもあった……。その子たちは、わたしが裸のしごとをしていることを知らないんですよね。「ゆまちゃん可愛い、頑張ってね!」なんて言ってくれて嬉しいけど、どこかで騙しているような気持ちもあった。(『AV女優、のち』 角川新書)

これまで男性向けの「お色気枠」に閉じ込められていたAV女優の存在が変わり始めていた。

『おねがい!マスカット』は、AV女優であっても裸を売りにすることなく、「可愛くて面白い女のコ」として評価されることも出来るのだと証明したのだ。

80年代後半、AV女優たちがこぞってレコードデビューを果たし、芸能界へと進出しようとして、失敗した時期があった。

その時は、AV女優側が「普通のアイドルと変わらない清楚な可愛い女の子」として売り出そうとしたことが敗因だった。

以降もAV女優の芸能界進出の試みは繰り返されたが、なかなか脱ぎ要員や下ネタ担当というお色気サービス枠を飛び出すことはできなかった。

成功例としては、『ギルガメッシュないと』のお色気要員としてスタートしながらも、バラエティの一線タレントとなった飯島愛と、『炎神戦隊ゴーオンジャー』などの特撮番組や、NHK大河ドラマ『龍馬伝』にも女優として出演した及川奈央が挙げられるくらいだろうか。

しかし恵比寿マスカッツの成功は、AV女優に対するイメージを大きく変えた。

興味深かったのは、AV以外の世界でも活躍するようになった恵比寿マスカッツのメンバーだが、「もうAVはやりたくない」「芸能の世界に専念したい」という者がいなかったことだ。

そのことに関して麻美ゆまは冷静にこう分析している。

 AVをやっているから恵比寿マスカッツがあるというのはわかっていたんですよ。だから、「AVの仕事は絶対におろそかにしちゃいけない」とみんな考えていたと思います。それから、番組では総合演出のマッコイ斉藤さんがとにかく厳しかった。毎回のように泣かされて帰ってました。みんなで番組を作る「団体戦」ってそれまで経験がなかったから難しかった。でも、AVでは「個人戦」で勝負してるわけじゃないですか。その自信が自分を支えてくれたと思うんです。もしそれがなかったら、やっていけなかったんじゃないでしょうか。(同前)

麻美ゆまは2013年に卵巣の境界悪性腫瘍が判明し手術を受けることになったが、そのわずか1ヶ月後の恵比寿マスカッツの解散ライブのステージに立っている。大きな手術の後であり、抗がん剤治療も受けているという状況にもかかわらず、5時間のステージを歌い、踊り抜いたのだ。

麻美は自分の病状が判明した時点で、マスカッツの解散ライブに出演することを目標として、それに合わせられる形で病院も治療も選んだのだという。

一方、みひろは恵比寿マスカッツへの加入と同時に『志村けんのだいじょうぶだぁ』を始めとする志村けん関係の番組や舞台に出演するようになったり、映画『SRサイタマノラッパー』での演技が評価されるなど女優としての活動を活発化させ、2010年にAVを引退する。


入江悠監督『SR サイタマノラッパー』(2009)

この時、恵比寿マスカッツも脱退しているのだが、それは円満な卒業ではなく、番組中のアナウンスもないフェードアウトだった。総合演出のマッコイ斉藤との軋轢もあったらしい。

『おねだりマスカットSP!』が終了した2年後の2015年に新たに『マスカッツナイト』という番組が始まり、メンバーを一新した新生「恵比寿★マスカッツ」が結成される。

番組は『マストカットナイト・フィーバー!!!』を経て『恵比寿マスカッツ横丁!』へとリニューアルし、恵比寿★マスカッツは一度解散し、新たに恵比寿マスカッツ1.5が結成される。そこに新メンバーとして登場したのが初代マスカッツのメンバーであったみひろだった。


恵比寿マスカッツ1.5『じゃり道 / ホップステップバック』(2018)

みひろ自身、きちんとした形での卒業ではなく、恵比寿マスカッツを離脱したことが心残りとなっていたために、再加入することになったのだという。35歳の新メンバーだ。

またPTAという肩書で、麻美ゆまも番組に参加した。

このように、二人にとっても恵比寿マスカッツは極めて思い入れの強い存在だった。

そして、それは以降のAV女優にも大きな影響を与えた。マスカッツのメンバーに憧れてAV女優になったと公言する新人女優が続出したのである。

AV女優は、女の子が憧れる職業へと変わりつつあったのだ。
 

第二次芸能人ブームの到来

2008年8月発売の複数の雑誌に、こんな広告が掲載された。

大きな女性のシルエットに「芸能人限定メーカー MUTEKI」「あの芸能人がこんなことを!」「芸能人しかキャスティングしません。」「はっきりいって無敵です。」という挑戦的なキャッチコピー。

そして「9月1日始動 第一弾芸能人 イニシャル発表!」「S・M」という情報にマスコミは色めき立った。様々な女性タレントの名前が浮かんでは消えた。中には「松田聖子」ではないか、などという意見まで出た。


『オレンジ通信』2008年9月号に掲載された「MUTEKI」広告

そして発表された第1弾出演者の名前は三枝実央だった。90年代にグラビアやバラエティ番組で活躍し、既に写真集などでヌードも披露している。一般的な知名度があるタレントではなく、正直肩透かしの感はあった。

しかし翌月の第2弾の出演者として発表された名前は、マスコミに大きな衝撃を与えた。

東洋紡水着キャンペーンガールやフジテレビビジュアルクイーンに選ばれ、CMやTV番組、映画などで活躍していた吉野公佳だったのだ。知名度的にも「芸能人」と呼ぶに相応しかった。


『吉野公佳 インパクト』(2008)

MUTEKIは大きな話題となりAV業界だけではなく、一般マスコミまで巻き込んだ騒動となった。当然の如く売上げも凄まじく、DMMの2008年度下半期DVDランキングでは、1位が『吉野公佳 インパクト』、さらに2位が『パーフェクト 佳山三花』、そして3位が『スキャンダル 三枝実央』とMUTEKI作品がベスト3を独占した。肩透かしだと言われたものの三枝実央出演作も売れに売れたのだ。

実際には吉野公佳の出演作「インパクト」は、AVではなく「アダルトイメージビデオ」という扱いになっており、セックスシーンも下着を穿いたままという映画の濡れ場シーン以下の露出度であり極めてソフトな内容であった。

MUTEKIは続けて、グラビアアイドルの佳山三花、虚偽告訴された裁判とIカップの爆乳話題になった女優の桜セレナ、着エロ界のスターである藤浦めぐなど、一般的にはやや知名度の劣る「芸能人」出演作をリリースしていったが、2009年には元セイントフォーの濱田のり子、そして元ウィンクの鈴木早智子という大物芸能人を立て続けに出演させ、またも大きな話題を呼ぶ。

MUTEKIの戦略の巧妙なところは、あえてAVとアダルトイメージビデオを同じレーベルで扱ったことだ。通常であれば、別のレーベルに分類するところを同一に扱うため、「あの有名タレントがAVに出演した」と誤解が起きやすくなるわけだ。そのため極めてソフトな内容であっても、高いセールスを記録することが出来たのである。

MUTEKIは、以降もつぐみ、島田陽子、小松千春、パイレーツの西本はるか、嘉門洋子、後藤理沙といった大物芸能人をアダルトイメージビデオに出演させ、話題を集めていった。

その一方で藤浦めぐ、春菜はな、星美りか、丘咲エミリなどMUTEKI以降はエスワンなどのメーカーに移籍し、本格的に活動し、人気AV女優となっていく者も多かった。

MUTEKIが大きな話題と共に活動を開始した2008年から2009年にかけては、第二次芸能人ブームとも呼ぶべき状況が訪れていた。

第一次芸能人ブームの際に範田紗々、琴乃、板垣あずさ、櫻井ゆうこなどをデビューさせたSODクリエイトは、その路線を継続させ、さらにグラビアアイドルの矢沢のん、爆乳着エロのHitomi、女優の原紗央莉もデビューさせ、この時期はなんと専属女優全員が「芸能人」の肩書を持っていた。


『芸能人 最初で最後の大乱交 4時間SP』(2008)

当時のSODクリエイトの「芸能人」女優に対する姿勢を、林プロデューサーはこう語っている。

 うちは単に注目されるためだけに『芸能人』とつけているわけじゃないんです。まず以前から芸能関係の仕事をしていること、そして今後も芸能活動をしていきたいと考えている子にだけ『芸能人』の肩書きをつけています。だから、その子が『これからはAV女優だけを末永くやっていきます。芸能活動には興味がないです』と言ってきたら外すかもしれないですね。彼女たちには一般の芸能活動をしたいという意志がある。だから僕らもバックアップしていきたい。(『NAO DVD』2009年7月号)

実際、この時期から芸能界とAV業界は、よりシームレスになっていく。以前のように、芸能界が単なるお色気要員としてAV女優を利用する、AV業界が話題作りとして芸能人の肩書を利用する、といったお互いを利用する関係ではなく、もっと自然に密接的な繋がりを見せるようなっていったのだ。

〈参考資料〉

佐野亨 編『昭和・平成お色気番組グラフィティ』(河出書房新社、2014年)
『ビデオメイトDX』2008年9月号、10月号(コアマガジン)
『NAO DVD』2009年7月号(三和出版)