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春がいっぱい

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2022.04.12

27 ボーダーレス化するAV[2]
エスカレートするプレイ

安田理央

1981年に発売された『ビニ本の女・秘奥覗き』と『OLワレメ白書・熟した秘園』にはじまるとされるアダルトビデオは、その誕生から今年で40年を迎える。欧米のポルノビデオとはまったく異なる独自の進化/深化をたどり、世界の性産業に影響を与える日本のエロビデオ文化を、アダルトメディア研究家の安田理央が、その前史から現代に至るまで、メディア、流行、社会状況、規制との駆け引きなど多様な視点から歴史化する連載。

イカセ物の乱立

恵比寿マスカッツの人気や、芸能人AVブームは、AVの一般化の象徴とも言えるが、その一方でAVの内容は過激化していた。

この時期に流行していたのは「イカセ」と呼ばれるプレイだった。激しい愛撫によって、女優を何度も何度も絶頂に追い上げるというもので、拘束して電動マッサージ機、さらには電動掘削機を改造した高速バイブ機などの道具を用いるなど、SM的な要素も強い行為だった。普通のセックスでの感じ方とは違い、極限まで快感を与え続けるため、女性の反応も激しい。体を仰け反らせ、声が枯れるほど絶叫し、涙やヨダレを流し、そして失禁や潮吹きまでしてしまう。普段は取り澄ましたような美女でも、イカセ責めにかけられると、人格が崩壊したかのような醜態をさらしてしまうのだ

「鬼イカセ」(レアルワークス)、「爆イキ」(アートビデオ)、「達磨アクメ」(ベイビーエンターテイメント)、「イキ地獄」(ワンズファクトリー)など、ダークでおどろおどろしいタイトルとジャケットの「イカセ」シリーズが乱立した。


『鬼イカセ 辻あずき』(2007)

こうした「イカセ」ジャンルの源流はSMだろう。緊縛してバイブなどで責めるというのはAVの黎明期からSMモノでの定番プレイだった。

特にSMメーカーの雄、アートビデオの社長でもある峰一也監督がMr.ミネックを名乗って90年代から撮っていた作品は、SMといっても苦痛はほとんど与えずに、女性をひたすらイカせまくる快楽責めを延々とおこなうというもので、イカセ物の原型的な存在だと言っていいだろう。

さらにインディーズブーム前夜とも言える90年代前半に松下一夫監督が撮っていた「美少女スパイ拷問」シリーズ(松下プロ)は、拘束した女性をくすぐる責めが中心だが、いち早く電動マッサージ機を使い、絶頂に追い詰め続けるというプレイを見せており、以降のイカセ物の元祖的な存在となった。

イカセ物のスタイルを完成させたのは、koolong率いるベイビーエンターテイメントだ。代表的なシリーズである「女体拷問研究所」は2004年からスタートし、外伝を含む50作以上が連続性のある大河ドラマとなっており、2008年の「AVグランプリ」では『女体拷問研究所 11』でマニアステージ最優秀作品賞と配信売上賞の二冠を制したほどの高い人気を誇っていた。

もちろん大河ドラマといっても、毎回、女捜査官が捕らえられて快楽責めの拷問に合うという内容が繰り返されるのだが、そのダークなムードと激しい快楽責めは後のイカセ物に大きな影響を与えている。また、10年代以降に定番ジャンルとして定着する「女捜査官」物も、この流れにあると言えるだろう。

もうひとつの元祖的な存在がTOHJIRO監督の「拘束椅子トランス」シリーズ(ドグマ)だ。椅子に拘束された女優を、様々な責めやセックスでイカせまくるという作品で、黒い椅子にM字開脚で拘束されているパッケージもインパクトがあり、こちらも人気シリーズとなった。


『拘束椅子トランス 星月まゆら』(2004)

これらのシリーズや、単体女優を起用し、大掛かりなセットを使用してバラエティ番組的なアプローチをした「完全なるイカセ4時間」(ミリオン)シリーズなどが人気を集めると、多くのメーカーがそこに参入し、空前のイカセ物ブームが訪れたのである。


『完全なるイカセ4時間 長谷川瞳』(2003)

ベイビーエンターテイメントの総合プロデューサー、監督のkoolongは、イカセ物の人気についてこう分析していた。

「イカセモノを見ている人は、責め手の男じゃなくて、責められている女性の方に感情移入するんですよ。ああ、あの子は今、どんな気持ちなんだろう。どんな快感なんだろうと想像する。むしろMですね。自分の中にある女の気持ちが刺激される。M性が全くない人は、そんなことは考えないですよね。オス的な気持ちだけの人は、子宮に一直線だと思うんです。もうハメるだけでいいはずですよ。ベイビーのファンからは、自分もやられてみたいって意見をよく聞きますよ」(『NAO DVD』2007年8月号)

またイカセ物が増加した背景には、実は意外な理由もあった。

AV女優、特に単体女優にはNG項目というものがある。NG項目とはSMはできない、アナルファックはできないというように、できないプレイのことを指す。2000年代以降は段階的にそのNG項目を解禁していくというのが単体女優の定番コースとなっていた。次第にハードな作品にエスカレートしていくことにより、ユーザーの興味を惹くわけだ。

ところがイカセがNGという女優はほどんどいないのである。一見ハードそうに見えるが、肉体的な負担や精神的なハードルもあまりないため、ほとんどの女優がイカセ物を断らない。

また、電動マッサージ機さえあれば、それほど苦労せずにイカセ物は作れてしまうという点も制作サイドとしては大きなメリットだった。

女優を拘束し、多めに用意した男優に電マ片手に襲いかからせれば、イカセ物らしき作品は作ることができる。それでいて過激でハードな作品に見えるのだ。

そうした安易な姿勢の作品も多く作られたことで、ブームにつながったのである。

ハードルが低くなる「中出し」

この時期、「イカセ」と並んでブームとなっていたのが「中出し」である。

2007年6月に発売された1143作のうち、タイトルに「中出し」を含む作品は106作にものぼっていた。モブスターズ・エンターテインメントのように「中出し」へのこだわりをコンセプトとしたメーカーまで登場していた。

中出しとは、膣内射精を意味し、コンドームを装着しないセックスということになる。

AVで中出しを大胆に打ち出したのは、1997年に設立されたアタッカーズが最初だと言われている。レイプ物専門メーカーのため、コンドームを装着するのは不自然ということでフィニッシュは全て中出しとなっていたのだ。

ただしアタッカーズは中出しをタイトルにつけてアピールするというようなことはなかったため、中出しブームの原点としては桃太郎映像出版が1999年からスタートさせた市原克也監督の「中出し」シリーズの方が適正かもしれない。

市原克也は白夜書房の編集者から転身し、80年代から活躍しているベテラン男優であり、本作では監督としてクレジットされているが、むしろ主役といってもいいだろう。出演女優にいかに中出しセックスをするかというのがコンセプトであり、そのために様々な作戦を立てていくというドキュメントだ。市原と女優の緊迫感あふれるやりとりが見どころとなっている。

90年代末のこの時期に中出し物というジャンルが誕生したのは、ビデ倫の審査を受けないインディーズAVが台頭したからでもある。それまでのビデ倫審査では、モザイクが大きく濃いため、中出しをしても性器からこぼれ落ちる精液を見せることができなかったため、映像的にあまり意味がなかったのだ。

コンドーム無しでのセックス、そして膣内射精を特別視するようになったのは、1987年のエイズショックの影響が大きいだろう。日本初のエイズ女性感染者が神戸の「売春婦」であったこと(後に誤報と判明)、そして1993年にソープランドのメッカである吉原でも感染者が発覚し、大パニックとなる。

これ以降、風俗でも「生中出し」をさせる店は大幅に減少。このような事件から、生・中出しを貴重なものとして見る風潮が生まれたのだ。

その一方で、エイズやSTD(性病)の危機は深刻化しているにもかかわらず、若い層でのコンドーム使用率は減少の一途をたどっている。人口1人あたりのコンドーム年間使用率が非常に高い日本だが(1998年度調べで年間4.55個。ちなみにアメリカは1.35個)、その後10年で消費量は全盛期の約6割に落ち込むなど、若者のコンドーム離れは激しかった。

つまり出演する女の子の側の「生中出し」に対する抵抗感は、以前より薄くなっていたのだ。

さらにアフターピルなどの避妊薬の進歩、男優への性病検査の徹底などから、女の子が「生中出し」を受け入れやすい状況も整ってきた。

もともと中出しは、レイプものなどで凌辱感を強調するための演出として描かれる一方、ナンパ素人モノなどでは、最も高いハードルとして描かれたりもした。つまり素人で「生で中出しまでさせてくれる女が最もいい女、すごい女」という価値観である。

シンプルSANO監督の「ハッピーマン」のように生中出しを徹底するナンパメーカーが生まれたり、カンパニー松尾監督が生ハメにこだわるのも(射精は膣外だが)、こうした背景があるのだろう。これらはあくまでも素人や企画女優に対するものだった。

しかし、この時期においては人気の単体女優が中出しモノに出演することが多くなってきた。例えば人気絶頂の春咲あずみや小澤マリア、「芸能人」の青木りんや櫻井ゆう子が中出しモノに出演するなどということは、少し前には考えられなかったことだった。

ぶっかけやアナルファックのような単体女優の解禁ステップのひとつに中出しが組み込まれたのだ。

とはいえ、当時においても疑似精液を使用した「疑似中出し」が横行していたのも事実であり、「真正中出し」などという自己矛盾を含んだタイトルの作品までもリリースされていた。

混沌化するAV業界

2007年から2008年にかけて、目立ったのは「イカセ」「中出し」だけではなかった。それまではごく一部のマニア向けだと思われていた「浣腸」「ニューハーフ」と言ったジャンルの作品までもが一気に増加したのだ。

2007年度のAV業界を振り返った(筆者を含む)業界関係者の座談会を見てみよう。

安田 〔前略〕それから浣腸モノが一気に増えました。浣腸なんて、それまでSMやスカトロなどのマニアに限定されていたのに、ちょっと信じられなかった。
大坪 オペラあたりが単体の子を使って浣腸をやったり、ばば・ザ・ばびぃ監督がVでハードな浣腸プレイをやったりしてましたね。
藤木 女の子が耐えられるようになってきたんじゃないかな。AV女優の数も増えてきて、それくらい出来ないとって感じで。電マ潮吹きなんかは当然だし、浣腸もやらないとって感じ。
X氏 気がつけばトップ単体でも電マやぶっかけは当たり前になってるもんなぁ。
安田 SODも単体は結構ハードですよね。
土屋 いや、うちはそんなことないですよ。単体はハードは売りにしていないです。
安田 でも、ぶっかけも中出しも露出も集団痴漢もやってるじゃないですか。あれがハードじゃないと思っている感覚自体が、麻痺してるのでは?
土屋 言われてみれば確かにそうですね(笑)。一作目から顔射やって、もうそれが普通になっていたり。
 単体は本番もしない、フェラもしないなんて時代もあったんですけどね(笑)。
〔中略〕
安田 ハードとはちょっと違いますが、2007年はニューハーフものもかなり売れたんですよね。
藤木 ニューハーフの子のルックスのレベルが上がったでしょ、愛間みるくとか月野姫とか。
X氏 やっぱりニューハーフもオペラが単体っぽく綺麗に撮り始めたのが大きいかな。
安田 浣腸とニューハーフが一般化した年って、なんかすごいですよね(笑)。混沌としてる。
藤木 2005年にS1が出来て、それによってセルショップに流れてきたライトユーザーが成熟したんじゃないかな。
安田 1年でS1から一気にニューハーフまで行っちゃった(笑)。
(『NAO DVD』2009年9月号)

こうした過激なプレイの一般化を象徴するのが2008年3月に引退した南波杏だ。南波杏は2002年のデビュー以来、ムーディーズの看板女優として高い人気を誇っていたが、アナルファック、レズ、黒人、ぶっかけ、中出し、ごっくん、イカセ、そしてニューハーフとの乱交にいたるまで、過激なプレイに挑戦し続けていた。


『最初で最後の南波杏&トリプルシーメール大乱交OPERAスペシャル』(2008)

文字通りにナンバーワン女優である彼女がここまでやってしまったのだ。もはや、人気単体女優=ソフト、企画女優=ハードという図式も成り立たなくなっていた。

また、この時期もうひとつ注目されていたのが、オタク系、アキバ系とも言うべきジャンルだった。

90年代にもゲームやアニメのコスプレを取り入れた作品が作られていたが、2004年にTMAが人気アニメをモチーフにした『マリア様がみている』を発売し、そのあまりにも忠実な再現度がネットで話題となる。以降も『涼宮ハヒルの憂鬱』『ひぐらしがなく頃に』『きら☆すた』などAVとは思えないほどに凝ったドラマ作品を連発し、一部のファンに熱狂的に支持された。


『涼宮ハヒルの憂鬱 香坂百合』(2006)

さらにSOD系のイフリートや、90年代から特撮系AVにこだわっていたGIGAなどのメーカーも含めて、2.5次元ブームとも言える盛り上がりを見せた。

またコスプレイヤーとして人気の高かったきこうでんみさが2007年にAVデビューするなど、コスプレイヤーやアキバ系アイドルのAV進出も、この頃から目立つようになっていた。


『芸能人★デビュー‼ きこうでんみさ』(2007)
〈参考資料〉

『NAO DVD』2007年8月号、2008年6月号、2009年9月号(三和出版)
『ビデオメイトDX』2008年3月号(コアマガジン)
『オレンジ通信』2008年2月号(東京三世社)