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春がいっぱい

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2022.04.29

28 ボーダーレス化するAV[3]
広がる市場

安田理央

1981年に発売された『ビニ本の女・秘奥覗き』と『OLワレメ白書・熟した秘園』にはじまるとされるアダルトビデオは、その誕生から今年で40年を迎える。欧米のポルノビデオとはまったく異なる独自の進化/深化をたどり、世界の性産業に影響を与える日本のエロビデオ文化を、アダルトメディア研究家の安田理央が、その前史から現代に至るまで、メディア、流行、社会状況、規制との駆け引きなど多様な視点から歴史化する連載。

プレステージの台頭

2007年から2008年にかけてのAV業界は、まさに混沌とした状況とも言える時期であったが、そんな中で著しい躍進を見せたメーカーがプレステージだった。

前出の『NAO DVD』誌での業界関係者座談会でも、プレステージ人気について触れている。
 

大坪 プレイのハード化が進んだ2007年というけれど、その一方でプレステージが売れていたという状況もありましたね。あそこは内容は基本的にあまりハードではない。
安田 内容は極めてオーソドックスなんだよね。デートしてハメ撮りして、とか。
A氏 やっぱりパッケージのよさですね。なんだかんだ言って、ショップで手に取らせるにはパッケージが全てですから。プレステージの方に聞いたんですけどパッケージと衣装にはすごいお金をかけてるそうです。ただ、パッケージだけじゃ続かないと思うんですよ。
X氏 実際に出演している女の子のレベルは高いですよ。パッケージ詐欺なんて言われる時もあるけど(笑)、中を見ても結構可愛い。
大坪 他で見ない新人を連れてくるし、プレステージでデビューして人気が出る子も多いです。
安田 可愛い子のセックスが見たいというAVの基本を押さえてるんですよね、プレステージは。ある意味、AVって、それでいいんじゃないかという気がします。やり方としては対極だけど、エスワンと共通するものがありますね。結局、AVユーザーが見たいものは、これでしょ? っていうわかりやすさ。
X氏 そりゃ、ほとんどの男にとっては、浣腸やニューハーフはちょっとキツイよ(笑)。AVの基本はやっぱりこっちにあるでしょう。
(『NAO DVD』2009年9月号)

プレステージはそれまで業界とは一切関係のなかった素人が集まって2002年に立ち上げたメーカーだった。インディーズ=セルビデオメーカーも既に飽和状態という時期だったために、当初は業界からも無視されるような存在だったが、「エスカレートするどしろーと娘」シリーズなどがヒットし、一躍人気メーカーとして注目されるようになる。


『エスカレートするドしろーと娘 72』(2005)

業界経験がなかっただけに、シンプルに「売れる作品とは何か」をストレートに考えることができたのがプレステージが躍進した理由だった。店頭で少しでも目立つためにとトレーシングペーパーの帯をつけたり化粧箱に入れるなど特殊パッケージを採用していたことも成功の鍵となった。

そして月に150人もの面接をした中から選び抜いて出演させるなど出演女優のルックスのレベルを上げることで、「素人=あまり可愛くない」という常識を覆した。それは「素人」という存在の意味を否定する部分もあるが、ユーザーはそれを支持したのだ。「素人」であっても、可愛くなければいけないという新しい「常識」が生まれつつあった。

プレステージの作品は、 内容自体はハメ撮り中心で極めてオーソドックスなのだが、それでも高いセールスを記録した。

他のメーカーが話題性を重視したり、マニアックな方向に走っていくのを後目に着々とライトユーザーを取り込んでいたのが、プレステージだったのだ。

また、2006年に発売された『一冊まるごとプレステージ』(三和出版)を皮切りにエロ本出版社とのコラボレーションを展開したのも大きかった。


『一冊まるごとプレステージ』(2006)

『一冊まるごとプレステージ』はムックの形態を取っているものの、本誌はわずか36ページで、プレステージの人気シリーズ「Tokyo流儀」20作のダイジェスト映像を収録したトールケース入りDVDが付録となっている。本誌と付録が完全に逆転しているのだ。また本誌で使われている画像もすべてプレステージから提供されたものだ。つまり、文字通り一冊の全ての素材をプレステージのもので構成したムックなのである。

『一冊まるごとプレステージ』以降、多くの出版社からプレステージのDVD付きムックが発売され、一時期はその数は10誌を超えるほどになった。当然のように他のメーカーのムックも発売されるようになったが、その先駆けとなったことから、こうしたムックは業界では「プレステージ本」などと呼ばれていた。

当時、「プレステージ本」を出すことに対して、プレステージの広報担当者はこう語っている。

うちとしてはパブリシティということが第一で、特にこれで利益を出そうということは考えていないんですよ。それよりも、こういう形でプレステージの本が書店にたくさん並んでいるということで、メーカーのイメージがより効果的にアップするんですね(『NAO DVD』2007年11月号)

コンビニや書店という場を使ったPRなのだとメーカー側は考えていたのだ。

しかしこれは結果的にエロ本を終焉へと導くこととなった。

インターネットの普及につれ、売り上げを落としていた出版社にとって、制作費を抑えられ、高い売り上げが期待できる「プレステージ本」は福音であったが、全ての素材をAVメーカーに頼るという制作体制に移行していったため、自社で撮影するというスキルを失ってしまったのだ。

こうしてエロ本は、AVメーカーから提供された素材を編集するだけの存在となり、オリジナリティは失われていき、読者からも見放されることとなる。

女性向けというブルーオーシャン

2009年にリリースを開始したソフト・オン・デマンドグループのメーカー、シルクラボは女性向けAVに初めて本格的に取り組んだメーカーだ。

シルクラボが誕生した経緯について、『週刊SPA!』2012年6月2日号で、社長の牧野江里がこう語っている。

自分はもともと、男性向けAVを作る仕事をしていたんですが、日々抱く仕事への疑問がスタートでした。映像内で行われるプレイに対して「なんて、現実離れしてるんだろうな」って

潮吹き、かきまぜ系の手マンですね。女優さんから「痛い」「嫌だ」といったグチを聞いていましたし、自分の経験からも世のメンズはなんでこんなに「ガシガシ教」に洗脳されてるのか!?と

女性誌である『アンアン』(マガジンハウス)は、1989年に「セックスで、きれいになる」という正面からセックスに取り組んだ特集で話題となり、以降セックス特集は毎年の恒例となっていた。そして2006年には夏目ナナを主演としたDVDを付録に付けて大きな注目を集める。そのDVDの制作を担当したのがソフト・オン・デマンドだった。その流れにシルクラボもあったのだろう。


『anan』(1989年4月14日号、特集:セックスで、きれいになる。)

実際、2009年のセックス特集以降、『アンアン』の付録DVDはシルクラボが手掛けている。

70年代の『微笑』『新鮮』(共に祥伝社)などの女性誌でも直接的なセックス記事は取り上げられていたが、女性向けアダルトメディアとして商業的に大きな成功を収めたのは90年代初頭のレディースコミックブームが最初だろう。

もともとは少女漫画を卒業した層へ向けての女性向け漫画として誕生したレディースコミックだが、次第に性表現が過激化していった。最盛期には200誌以上が乱立し、それぞれが10万部以上を売り上げていたという。

また1992年には女性向けセックスのハウトゥ本である『ジョアンナの愛し方』(オリビア・セント・クレア著、飛鳥新社)がベストセラーになるなど、90年代は女性のセックスへの興味が表面化しはじめた時代だったといえる。


オリビア・セント・クレア『ジョアンナの愛し方』(1992)

さらに1993年には『綺麗(Kirei)』(笠倉出版社)を始めとして、多くの女性向けエロ雑誌も創刊された。


『綺麗(Kirei)』(1995年1月号)

『アンアン』の成功をきっかけに、紙媒体においては女性向けの「エロ」は大きなジャンルとして商業的に確立していったのである。

しかし、その一方で女性向けのAVを作るという試みは80年代から何度となくおこなわれているのだが、なかなか成功には結びつかなかった。

その理由のひとつとしてはAVを見るためには、レンタルビデオショップで借りる、もしくはセルビデオショップで購入するというハードルがあったからだ。女性にとって、AVをカウンターへ差し出すことは、やはり抵抗があるだろう。

しかし90年代後半からCS放送でAVなどのアダルト番組が放送されると、主婦がこっそりと鑑賞するといった動きが見え始める。午前中に熟女物の視聴率が高くなるというのだ。これは主婦たちが主演の熟女女優に自分を重ねて見ていたのではないかと推測されていた。CS放送ならば、店員の目を気にすることなく自宅でAVを楽しむことができる。

こうした動きが2000年代初頭の南佳也のブレイクへとつながる。南佳也は90年代末にAV男優としてデビューし、熟女物などに多数出演。その端正な顔立ちとガッチリとした肉体で元祖イケメン男優として女性たちから熱狂的に支持され、写真集まで発売された。

CSのアダルトチャンネルで放送されていた熟女AVの男優として南佳也がよく出演していたことが人気の発火点となったと言われている。

その南佳也出演作品の多くを監督していたのが女性監督の長崎みなみだ。彼女がホームグラウンドとしていたメーカー、ロイヤルアートのこの時期の公式サイトでは、トップページから南佳也のアップ画像が表示され、南佳也の特設コーナーが作れられるなど、男性向けのAVメーカーであるにもかかわらず、南佳也ファンに向けた内容になっていた。それほど彼の人気は高かったのだ。

長崎みなみはこの時期に、「男と女のワイドショー」シリーズ(グラフィティジャパン)本格的な女性向けAV作品も監督している。


『男と女のワイドショー ある愛の形』(2004)

2000年代後半になると、もうひとつのインフラが大きな役割を果たす。携帯電話である。『週刊SPA!』2009年2月3日号の「女が夢中の『携帯エロサイト』鑑賞会」という特集は、プレステージの面接担当者のこんなコメントから始まっている。

1年ほど前から、携帯で動画を見てオナニーのオカズにする、という女のコが増え始めた。感覚的には面接に来る女のコの7〜8割がオナニーをしていて、そのうち2〜3割の女のコが携帯をオカズにしているという印象。ほとんどが動画を見ているようです

この特集では、全国の18歳から29歳の女性へのアンケートをおこなっているのだが、その中の「オカズに利用したことがあるのは?」という質問で「携帯電話で見たエッチなサイト」という回答が全体の26.2%で第3位となっている。

また取材された25歳の女性はこんなコメントをしている。

週に2〜3回は、携帯サイトでエッチな動画を見ながらオナニーしています。〔中略〕雑誌やDVDのように手元に物が残らないし、寝ながらこっそり見られるので、パソコンのように周りを気にする心配もないんです。両親がいる時間にトイレに携帯を持ち込んでオナニーすることもあります

携帯電話が進歩し、動画を気軽に楽しめるようになったことで女性の間にAVを見るという習慣が根づき始めたのだ。

そうした状況の中で、シルクラボは注目を集めたのである。

シルクラボは設立にあたって、250人の女性モニターに50項目に及ぶアンケート調査をおこない、女性の性的な悩みを解消するための提案をおこなうプロジェクトとして発足したのだという。そのため当初はセックスハウトゥ的な作品も作られていたが、やがてイケメン男優をメインにしたロマンティックなドラマ作品が中心となっていく。恋愛ドラマのようなタッチで描かれ、セックスシーンは少なく、それも極めてソフトなものだった。

やがてシルクラボ作品に出演する男優たちの人気が高まっていく。中でも一徹、月野帯人、ムーミンの3人は「エロメン三銃士」と呼ばれ、彼らの出演するイベントには女性ファンが殺到した。


『-SILK- Eyes on you 鈴木一徹』(2010)

さらに2011年にはCS放送局のパラダイステレビ系の女性向けAVメーカー「JUICY DINER」が登場したり、h.m.pが一徹の出演シーンを女性向けに編集したベスト盤DVDを発売するなど、女性向けAVというジャンルが盛り上がりを見せた。

ただし、実際にはその後の女性向けAVメーカーとしてはシルクラボのみが継続するに留まった。

これは「女性が見たいAV」が必ずしも「イケメンとのロマンチックなドラマ」ばかりではないという現実があったからかもしれない。

日本最大のAV配信・通販サイトであるFANZA(旧DMM R18.)が2018年に発表した「FANZA REPORT 2018」によると、女性ユーザーの検索ワードの1位「クンニ」に次いで2位は「痴漢」、さらに8位「潮吹き」、10位「媚薬」、11位「中出し」、12位「アナル」、21位「レイプ」、25位「乱交」など刺激的なワードが並んでいる。

男性のランキングと変わらない、というよりも、1位「熟女」2位「巨乳」3位「人妻」という男性のランキングの方が大人しさすら感じられる。男性には「レイプ」「乱交」などの凌辱的なワードはランクインしていないのだから。

女性は、男性が好んで見るような過激で暴力的なAVは好まないというイメージは完全に覆される。

これは海外においても同じで世界最大級のアダルト動画配信サイトであるPornHubが発表した2019年度の検索ワードランキングを見ても、男性の上位3位が「Japanese(日本人)」「Amateur(素人)」「Mature(熟女)」となっており、以下も特に過激なワードはランクインしていない。

一方、女性の上位3位は「Lesbian(レズビアン)」「Popular With Woman(女性に人気)」「Japanese(日本人)」となっており、上位2位に女性らしさは感じられるものの、以下は男性のランキングと変わったワードは出て来ない。むしろ「Gangbang(輪姦、乱交)」のような過激なワードは女性ランキングのみに登場している。

男性も女性も、「見たいAV」の内容はあまり変わらず、むしろ女性の方が過激なものを求める傾向がある、と言ってもよいのではないだろうか。

こうした状況も実はシルクラボ側もわかっているようで、『週刊SPA!』の記事でも、牧野社長はこんな発言をしている。

「胸キュン補充をしてます」っていう意見がすごく多いです。女の人がヌケる作品をという気持ちもあったんですが、よくよく考えると、そういう人は普通のAVでいい。男性向けAVのジャンルは幅広いですから。〔中略〕あくまでエッチな世界の入門編。シコれはしないけど濡れるみたいなレベルで留める感じですね(『週刊SPA!』2012年6月2日号)

00年代に入り、スマートフォンが普及すると、「AVはスマホで見るもの」という意識が強くなっていく。それは当然のように女性のAV視聴の増大にもつながっていく。

そして多くの女性は、女性向けではなく、男性向けのAVを見ていたのだ。

AVのほとんどは、あくまでも男性の性的欲求を満たすために作られている。それを見ることで、女性の性に対する意識も変化が起きていく。

〈参考資料〉

『NAO DVD』2007年11月号、2009年9月号(三和出版)
『EX大衆』2014年2月号、8月号、2018年2月号(双葉社)
『PENT-JAPANスペシャル』2007年5月号(ぶんか社)
『週刊SPA!』2009年2月3日号、2012年6月2日号(扶桑社)
『サイゾー』2014年8月号(サイゾー)