newworld

じゃっ夏なんで
じゃっ夏なんで
1981年に発売された『ビニ本の女・秘奥覗き』と『OLワレメ白書・熟した秘園』にはじまるとされるアダルトビデオは、その誕生から今年で40年を迎える。欧米のポルノビデオとはまったく異なる独自の進化/深化をたどり、世界の性産業に影響を与える日本のエロビデオ文化を、アダルトメディア研究家の安田理央が、その前史から現代に至るまで、メディア、流行、社会状況、規制との駆け引きなど多様な視点から歴史化する連載。
2003年頃から日本でも注目されはじめたブログ。2004年9月には南波杏がいち早く公式ブログを開始し、推理小説やゲームといった自分の趣味についての記事を頻繁に更新し、話題となった。特にファンだという島田荘司の作品について書くことが多かったことから、それがきっかけとなり島田本人との対面も果たしている。
翌年には蒼井そらもブログをスタートさせ、2006年にブログの記事をまとめて、書き下ろしエッセイを加えた書籍『そら模様』(講談社)を発売した。
2005年はブログをはじめるAV女優が一気に増え、特に単体女優はブログを書くのが仕事の一部というような状況へとなっていく。
2004年からブログを開始している吉沢明歩は、自分のブログについて、こう語っている。
ブログに関しては、あまり仕事でやってるとは思われたくないんですけど(笑)。AV女優って自分の気持ちを言う場があまり無いんですね。インタビューでもエッチな話ばかりがクローズアップされるし。でも、AV女優なんだからって特別じゃなくて普通の女の子なんだよってことを伝えたいです。毎日書くのは大変ですけどね。書くのに30分くらいかかるので疲れている時なんか、携帯持ったまま眠っちゃったりして(『NAO DVD』2008年4月号)
AV女優本人としても、自分の声を直接ファンに届けられる初めてのツールとしてブログは機能したのだ。ブログの登場により、この頃からAV女優の意識が変わりはじめたと言えるのかもしれない。
さらにAV女優とファンの関係を身近なものにしたのが、2008年に日本で本格的にサービスが開始されたTwitterだ。じわじわと利用者が広がり、2010年頃にTwitterを始めるAV女優が一気に増加する。
ある程度の文章量が必要なブログよりも、気軽に「つぶやける」Twitterは、書く側にも見る側にも親しみを感じやすいメディアであり、AV女優とファンとの相性はよかった。2010年の段階で100人以上のAV女優がTwitterを始めており、また監督やメーカーの公式アカウントも増え、AVの情報を入手するためのツールとしてAVファンにとっては、必要不可欠なものとなっていった。
その一方で失速していったのがAV情報誌だった。2007年に『アップル通信』(三和出版)が休刊したのを皮切りに、2009年『オレンジ通信』(東京三世社)、2010年『ビデオメイトDX』(コアマガジン)、そして2012年に『ビデオ・ザ・ワールド』(コアマガジン)と、AV業界を牽引してきた雑誌のほとんどが立て続けに休刊してしまったのだ。
エロ雑誌自体が2000年代に入って急速に売上を落とし、姿を消していったわけだが、AV情報誌もその流れから逃れることはできなかった。
エロ雑誌衰退の原因となったのは、やはりインターネットだろう。特に即時性が求められる情報誌においては、印刷物はネットにはかなわない。しかもネットの情報は、ほとんどが無料なのだ。
AVの情報はメーカーのサイトやDMM.R18(現・FANZA)のような通販サイト、あるいは無料の情報サイトで入手できるし、ユーザーレビューも読むことができる。
そしてそれまで、AV作品以外でAV女優の素顔に触れることができる貴重な場であった彼女たちによる連載コラムも、ブログやTwitterの方がより本人の生々しい声を楽しめるのだから雑誌のアドバンテージはどんどん薄れていった。
2012年に『ビデオ・ザ・ワールド』が休刊すると、残ったのはDMMグループが発行している『月刊DMM』(現『月刊FANZA』ジー・オー・ティー)と、ソフト・オン・デマンドが発行している『月刊ソフト・オン・デマンド』、そして『ベストビデオ スーパードキュメント』(三和出版)の3誌のみとなった。メーカー系である『月刊DMM』『月刊ソフト・オン・デマンド』に対抗できる唯一の出版社系の雑誌であった『ベストビデオ スーパードキュメント』も2013年に休刊。スタッフは版元を移して『ベストDVDスーパーライブ』(ブレインハウス)として再出発を図るが、2019年に休刊となってしまう。
最盛期には数十誌が乱立していたAV情報誌も、こうして終焉を迎えたのだ。
さらにインターネットの普及は、国境を曖昧なものにしていった。日本のAV女優の海外での人気が過熱していったのである。
もともとアジア圏、特に台湾や香港では日本のAVが海賊版として数多く出回り、日本のAV女優も高い人気を誇っていた。
中でも特に人気が高かった女優が、飯島愛と夕樹舞子である。
1997年には、現地の風俗情報誌『ナイトライフ』の招待で夕樹舞子が香港を訪れ、サイン会を開催しようとしたが、会場のショッピングモールには8000人以上のファンが押し寄せ、また毒ガス散布の噂が流れたため、急遽中止となるという騒動もあった。また彼女を主演にした映画も撮影され、大ヒットを記録している。
そして00年代になり、ブロードバンド回線が普及するにつれ、ネットを介して日本のAVの人気はさらに高まり、日本のAV女優への注目度もまた高くなっていた。
そんな中で、ずば抜けた人気を誇ったのが蒼井そらだった。
そのきっかけとなったのがTwitterであった。2010年4月に、彼女が中国で自分のフォロワーが急増したことに驚いたというツイートをしたところ、それに反応した中国人ユーザーのレスが殺到し、フォロワーがさらに急増したのである。
さらにちょっとした事件が彼女の中国での人気を煽った。
蒼井がグーグル翻訳を使って「中国のファンたちありがとう」と中国語でツイートしたところ、たまたま翻訳ミスで「ファン」がサッカーファンを意味する「球迷」と訳された。「球」が女性のバストを婉曲にイメージさせる単語だったことがネット民のセンスに合い、これが中国側のネット上でバズったのであった。(安田峰俊「『中国人が最も愛した日本人』蒼井そらの功罪 AV女優ブームからひもとく日中ポップカルチャー史」JBpress、2018年1月8日)
蒼井そらは中国国内でも芸能活動を開始し、ドラマやバラエティ番組、CMなどにも出演するようになり、中国での人気を確固たるものとしていった。
彼女の中国での人気を日本国内に印象づけたのが、2012年に日本政府が尖閣諸島の国有化を決めたことをきっかけに各地で起こった大規模な反日デモで、「尖閣諸島は中国のもの。蒼井そらは世界のもの」というフレーズが使われたのだ。
また台湾の人気女優、リン・チーリンに似ているというところから、波多野結衣が台湾を中心に高い人気を得て、交通ICカードのイメージキャラクターを務めたり、小澤マリアがインドネシアで主演映画を撮影した際にはイスラム教の聖職者たちが抗議するという事件が起きて社会問題化するなど、日本のAV女優の海外での人気を実感させるニュースが次々と飛び込んできた。
アジア圏だけではない。2011年に単身で渡米してアメリカのポルノ業界で活動を開始し、数々の賞を受賞するなどの華やかな実績を残しているまりか(Marica Hase)や、世界最大級の巨乳サイトとして知られる「SCORELAND」で「Model of the Decade」(10年間で最も人気のあるモデル)の一人に選ばれたHitomiなどの欧米での活躍も印象深い。
しかし中国をはじめとする諸外国では、AVの販売は禁止されているということもあり、海外のユーザーが見ているのは、ほとんどが違法アップロードされた動画であった。
どれだけ知名度が上がろうと、正式に商品を販売することは出来ず、メーカーとしてAVの市場を広げることは難しかった。
それでも、AV女優のイベントの開催や彼女たちの写真を使ったアダルトグッズなどの販売によって、海外ビジネスは着実に広がっていったのだ。
そしてインターネットは海外から日本への無修正動画の流入を促進させた。
90年代末から、海外制作による日本人女優の無修正AVの逆輸入が話題となっていたが、00年代半ばには撮り下ろしの無修正動画配信が中心となっていく。
なかでも2005年から配信を開始した「Tora-Tora-Tora」は、金沢文子、鈴木麻奈美、灘ジュンといったトップクラスの人気単体女優を撮り下ろし、それまでの無修正配信動画とは一線を画したインパクトをユーザーに与えた。
さらに、90年代から動画配信をしていた「カリビアンコム」や、いち早くハイビジョン動画を手がけた「一本道」、過激な凌辱物中心の「TOKYO-HOT(東京熱)」、素人物の「Hな4610」、素人熟女物の「Hな0930」、そして老舗の「99bb」(後に「Tora-Tora-Tora」と共に「XVN」に統合)など多くの未修正動画配信サイドが競い合うように盛り上がりを見せた。
2008年には海外での人気も高かった小澤マリアがXVNで撮り下ろし無修正動画に初登場し大きな話題となる。
10年代に入ると、一般のAVで活躍している企画単体女優が無修正動画に出演することが珍しくなくなってくる。気になる女優の名前を検索してみると、まず無修正作品がヒットするというようなことも起こっていた。
人気女優が引退作として無修正動画配信を選ぶということも増えてくる。
松浦亜弥似ということで話題となった紋舞らんも、2006年に突如活動を停止した後に2007年に無修正動画の『ラストもんち』を引退作として発表(2006年にNEXT GROUPより引退作をうたった『紋舞らん最終回。』という作品が出ているが、『ラストもんち』の作中でスタッフが引退をねぎらうシーンが収録されている)、他にも藤井彩、愛咲れいら(原千尋)や京本かえで、つかもと友希(牧本千幸)なども無修正動画を引退作としている。
上原亜衣のように引退直前に無修正動画に多数出演するという例もあった。
なかでも業界を驚かせたのが、ミリオンの看板女優として大人気であった麻倉憂が2013年3月発売の『8時間10本番! 引退』(ミリオン)で引退した、その半年後にカリビアンコムの『女熱大陸 File.032』で復帰したことだった。超人気女優が復帰作として無修正を選ぶとは前代未聞の事件だった。
無修正動画サイトは、AVメーカーに比べて2〜3倍、有名女優の場合には10倍ものギャラを払うという話もあり、一時期はプロダクションも、そして女優自身も無修正への出演を容認していたようだ。
またこの時期には海外のアダルト動画共有サービスであるXVideosなどに、無修正動画が多数アップされ、無料で見られることから、無修正が一般的なものになっていた。有料のAVよりも、無修正の方が簡単に見られてしまうというねじれ現象がおきていたのだ。
スマートフォンの爆発的な普及もあり、誰もが簡単に無修正動画を見ることができるという時代が到来していた。もはや「無修正」は特別なものではなくなっていた。
その一方で2013年に無修正動画に出演したことで、わいせつ磁気的記録媒体頒布幇助容疑で、27歳の女優が逮捕されるという事件もあった。「無修正のままインターネットで配信されることを知りながらAVに出演したことが逮捕容疑(『フライデー』 2013年12月20日号)ということだが、出演しているだけの女優が幇助容疑で逮捕されることは珍しい。また彼女が現役のオペラ歌手であり、小学校の非常勤講師であったことから大きく報道された。
ただし、視聴に関しては問題がないというのが当時のユーザーの意識だった。この時期、警察庁生活安全局保安課はこんな見解を示している。
あくまでも猥褻な文書や図画、電磁的記録に係る記録媒体などを頒布し、または公然と陳列した者は罰せられるというもので、個人的に楽しむ目的で海外の動画を購入したとしても罪に問われることはありません。(『週刊ポスト』2015年4月3日号)
海外配信の無修正動画は、犯罪なのか合法なのか、あいまいなまま市民権を得つつあった。
谷川建司、呉咏梅、王向華『拡散するサブカルチャー 個室化する欲望と癒しの進行形』(青弓社、2009年)
森ヨシユキ『アダルトビデオ「裏」の世界』(宝島社、2012年)
『フライデー』2019年4月5日号(講談社)
『週刊ポスト』2015年4月3日号(小学館)
『NAO DVD』2008年4月号 2010年11月号(三和出版)
『オレンジ通信』2007年3月号、2009年3月号(東京三世社)
Rio YASUDA
フリーライター、アダルトメディア研究家。主な著書に『痴女の誕生』『巨乳の誕生』『日本エロ本全史』(全て太田出版)、『AV女優、のち』(角川新書)、『ヘアヌードの誕生』(イースト・プレス)など。