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2021.10.14

02 見えない場所も美しく整頓【東京都現代美術館 美術図書室】

今井夕華

編集者にして無類の“バックヤードウォッチャー”である今井夕華が、さまざまな施設、企業、お店の“裏側”に潜入して、その現場ならではの道具やレイアウト、独自のルールといったバックヤードの知恵をマニアックに紹介する連載企画。

表舞台編

こんにちは。編集者でバックヤードウォッチャーの今井夕華です。第1弾の「特撮研究所」に続いてお邪魔したのは、東京・清澄白河にある東京都現代美術館。今は横尾忠則展が開催中で、最近だと石岡瑛子、ミナ ペルホネンやダムタイプなどの展覧会を開催している人気美術館です。今回は、その地下にある「美術図書室」をウォッチしていきます!

美術図書室というだけあって、所蔵されているのは、美術関係の資料がメイン。書籍、雑誌をはじめ、展覧会カタログ、視聴覚資料、さらには海外の資料も豊富で、総所蔵数はなんと27万点以上です! なんとなく敷居が高そうに見えるかもしれませんが、誰でも無料で利用できます。

今回は、司書の平澤智子さんにご案内いただきました。美術館の講座に参加し、現代美術にどハマりした平澤さん。「ここで働きたい!」と思い、入団してから14年が経ったそうです。

舞台裏編

関係者入り口から潜入!

取材当日。いただいた地図をもとに通用口を訪ねました。関係者入り口とは思えないほどの、綺麗なエントランスでびっくり。入館手続きを済ませて、さっそく美術図書室に案内してもらいます。

入ってすぐの本棚です。2021年8月現在は感染症対策でさっぱりしていますが、よく見ると上段には各地の展覧会情報が入ったファイルがびっしり! 壁の柄と似ていてトリックアートみたいになっちゃってます。ぴったりに詰まっているので、取り出すのにはコツがいります。

ファイルはかなり丈夫なつくり。差し込むタイプのラベルになっていて、都道府県と美術館の名前が表記されています。

フォントは2種類に統一

このラベルをはじめ、美術図書室内でのサイン表示に使用しているフォントは「たづがね角ゴシック」と「Graphik」というもの。統一感って大事ですよね。

ちなみに、美術図書室内の什器などのセレクト、サイン表示のデザインなどは専門業者に相談しながら、司書さんたちが考えたそう。専門ではないデザイン周りのことまで担当しているとは驚きです。

ブックトラックに込められた優しさ

こちらは本を運ぶ「ブックトラック」。色はオールブラックという特注品です。メーカーの電子カタログで調べたところ、足元についているのは「バンパーリング」といって、家具や壁にぶつけても傷を付けないためのもの。キャスターは静音タイプです。え、めちゃめちゃ優しい世界!

きっと誰かに「ブックトラックが当たって傷がついた」とか「移動音がうるさい」とかいわれてきたんでしょう。私は今までブックトラックについて深く考えたことがなかったけれど、毎日考え抜いているメーカーや技術者がいるってことなんですよね。すごい話ですよ、まったく。

案内板の数字は、黒いマグネットシート+白いカッティングシートで出来ていて、スチール製のものに貼り付けられるようになっています。一辺が切り落とされていて着脱が楽にできそうです。1年に1回くらい思い出すけど、マグネットって便利すぎ。

ホワイトボードの「使いこなし力」に拍手

続いてお邪魔したのは、美術図書室奥にあるワークスペースです。こちらのホワイトボードは、バックヤードに隠しておくのがもったいないくらいの、とても美しいプロダクトです。しかし! ここで私が注目したのは、その美しさに負けない「使いこなし力」です。

左上には1ヶ月の予定表があり、右中央には1日の当番表が。カレンダーやシフト表、館全体の予定表も見事に一元化されています。スケジュールについて分からないことがあったら、とにかくこのホワイトボードを見ればOKってことです。特に当番表は担当者ごとに色分けをしていて、パッとみて分かりやすいし、かわいい仕上がり。いやー、ホワイトボード使いこなし力、高過ぎです!

美しい道具って、なんだかもったいなくて、つい飾ったままにしちゃいますが、やっぱり使いこなしてなんぼなんでしょうね。

クリーンなオフィスは食べ物厳禁

平澤さんのデスクでは、バーコードを読むための「ピ」の機械を発見! PCに接続されていて、図書室業務には欠かせない必需品なのだそう。どうやって繋いでいるのか気になったのですが、USBでいけるみたいです。

書類は紙製ファイルにまとめられ、テプラでラベリング。綺麗に整頓されています。

そして、ゴミ箱はまさかのメッシュコンテナ! 取材が午前中だったからか、まだ何も入っていませんが、左が可燃で右が不燃、丸いくずかごは細かいゴミ用になっています。紙など大きなゴミが多いため、この形になったのだとか。このタイプの「ゴミ箱」は初めて見ました! ラベルなどはなく、みんなが暗黙の了解で分別しています。

ワークスペースでは、汚れと害虫防止の観点から、基本的に食べ物はNG。休憩室には、強そうな蓋付きのゴミ箱が設置されていて対策は万全です。

文化財害虫から図書室を守れ!

文化財に被害を与える虫は「文化財害虫」と呼ばれていて、例のあの虫をはじめ、紙や布を食べる虫、フンで紙を汚染する虫などさまざま。これは主要な33種をまとめた「文化財害虫カード」です。うーん、ちょっと欲しい!

平澤さんは「昆虫生息調査」の担当者として専門の講習会を受講していて、調査用の粘着トラップを定期的にチェックする係。中を開いてどんな虫がいるか調べるときは、毎回勇気を振り絞っているそう。資料を守るためとはいえ、大変な仕事だなあ。

道具は長く大切に使う

こちらは本の装備や修理をするための作業机。必要な道具がところ狭しと並べられていて、この機能美な感じ、ワクワクします。

中央上の「入」「出」と書かれたケースは本来書類用ですが、道具入れとして使っています。消耗品の箱には使用開始日を記載して、購入頻度の参考にしているそう。几帳面ですよね。

小さくなった鉛筆や、表面の革が剥がれたペーパーウェイトも、まだまだ現役です! 本だけでなく、道具も直しながら大切に使っています。

これは「タトルテープ」といって、資料に貼るもの。ビニール製の剥離シートがキラキラしていてかわいい感じ。

立ち入り禁止の近未来空間

最後に案内してもらったのは閉架書庫です。靴の汚れを粘着シートでペタペタ取ってから、いざ入室! 温湿度管理と害虫対策が徹底されています。入ってみると、丸い取っ手がずらっと並ぶ、近未来的な空間が広がっていて、これぞ立ち入り禁止エリアといった感じ。

本棚には免震構造搭載。棚のへりには落下防止の背受けも付いていて、地震対策もバッチリです。いつか誰かに閲覧される「そのとき」のため、大量の資料が「日本十進分類法」に沿ってジャンルごとに並んでいます。

取り出すときには、資料と引き換えに貸出日と請求記号などを書いた「差込表示板」をイン。元あった場所に正しく戻せる仕組みです。右下の突起が棚に引っかかってくれるので、手前で止まってとても便利!

見えない場所まで美しく整頓されたバックヤード

東京都現代美術館 美術図書室のバックヤードにお邪魔して感じたのは、見えない部分までどれも丁寧に整理整頓されていて、とても美しい場所だったということ。清潔なのはもちろんですが、丁寧に大切に、資料や道具を扱う姿勢が美しいなあと思いました。

そもそも図書館には「日本十進分類法」という考え方がベースにあるから「ルールに沿って整える」ってことは当たり前なのかもしれません。でもそれって、ちょっとすごいことですよね。平澤さん、東京都現代美術館のみなさん、お邪魔しました!

平澤智子
Tomoko HIRASAWA

美術図書室司書。2007年4月東京都歴史文化財団に入団、東京都現代美術館 美術図書室に配属。2010年「こどものにわ」展にて、展覧会場で読み聞かせを実施。2014年特別展示「美術図書室の蔵書より-ユニークなかたちの本」の企画実施。資料の補修・受入や、2019年のリニューアル・オープンの準備、「こどもとしょしつ」に携わる。 https://www.mot-art-museum.jp/

今井夕華

Yuka IMAI
フリーランスの編集者/バックヤードウォッチャー。1993年群馬県生まれ。多摩美術大学卒業。小学校の頃から社会科見学が好きで、大学の卒業制作では多数の染織工場を取材。求人サイト「日本仕事百貨」を経て2020年フリーランスに。人間味あふれるバックヤードと、何かが大好きでたまらない人が大好きです。

https://imaiyuka.net/